元教員ラッパー(23)、心の病気になり、小説家を目指す。
浅田秀斗
ハジマリ
手の中から溢れた砂をそっと拾い集める。
全てを掬おうとしたけど、どんどん落ちていく。
気がついた時、手の中には何もなかった。
いつも、決まった夢から目を覚ます。
心の病気で辞めることになった教師の仕事には、復帰できないと、主治医から言われた。
かなり険しい道だから、諦めなさいと言われたが、もう一度子供達と笑い合ったり、苦しみ合ったりしながら、1年間だけでいいから過ごしたいと思う。
手にしていた安定や名声は、すぐ消え去った。
今はアルバイトをしながら暮らしをしている。
月給10万円、家賃と食費で消え、ほぼ日銭は残らない。
リハビリのため、毎日4時間しか働けない。いたずらに時間だけ有り余っている中、見つけたのが小説家という術だった。
昔から書くことは好きだった。
国語の「盆土産」という作品の続きを書く物語で、お父さんが、息子たちに内緒で、クリスマスプレゼントとしてえんびフライを買ってくるというものを書いてみたことがある。
盆土産からクリスマスプレゼントへの転換、国語の先生からは、「すごいストーリー」だと褒められた。それが、楽しいと思った初期衝動になった。
クラスで1番を決める俳句の時、どうしても表現に納得いかなくて、2個出したら、2位と3位に票が割れてしまって、優勝できなかった時がある。
その時から、自分には、こだわりがあって、書く才能があるんじゃないかと思った。でも、当時、ラップにハマってたし、自分で物語を書いてみようなんて、想像もつかなかった。
小学校の教師をしてた時、「山場のある物語をつくろう」という単元があった。2枚の絵から物語を作るものだ。
雨が嫌いだった女の子が、友達に出会って、雨が好きになる話。
学校に不登校になりそうな女の子達がいたから、その子達を主人公にして、「雨が降らないと虹は出ないんだよ」、「辛いことがあっても乗り越えて、一緒にいいクラスにしていこう」と物語を書いて渡してあげたら、その子達全員が泣き出した。
その時、自分が書く物語には、誰かを感動させる力があるんじゃないかと信じるようになった。今思えばすごい綺麗事だなって思ったりするけど。
小説家になろうとした時、どうやったら小説家になれるんだろうと率直に思った。
インターネットに投稿したり、賞を受賞したら、なれるんだろうか。
僕は、自分が経験したものをベースにしか作品が作れない。じゃあ、小説家を目指すストーリーを作ってしまえばいいと思った。
「元教員ラッパー(23)、心の病気になり、小説家を目指す。」
今ある人生をエンタメにしてしまおう。
ラップ小説は書けたから、他にもアイドルを目指したり、芸人を目指したり、他ジャンルも書いてみたいな。でもまずは小説家。このストーリーを始めなくっちゃ。
元教員ラッパー(23)、心の病気になり、小説家を目指す。 浅田秀斗 @shuto0126
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