叩かれた令嬢、ボスの口づけで一発逆転!
キャプスは3階までの階段を丁寧にエスコートしてくれる。
高いヒールで歩くエリールにとってはありがたいが、腰を支えられて階段を上るには段数が多く、心臓に悪かった。
「もっと身体を預けてくれて大丈夫だ」
「そう言われても、悪いわ」
「いいから」
身体を寄せられると、ぐっと階段も上りやすくなった。ふと上を見るとキャプスの顔も近い。彼のことはなんとも思っていないはずなのに……意図せずドキドキした。
(この人は、不器用なの?器用なの?)
キャプスは変わらぬ表情でエリールを見下ろした。
「どうかしたか?」
「いえ……」
席に着くと、視線がちらちらと刺さってくる。 “新タップ伯爵が令嬢を連れてきている”──そんな噂をされているような気がした。
気まずい中、席に腰を下ろすと、キャプスが上着を脱いでエリールの脚にかけた。
「別に寒くないけど」
「……脚が丸見えだ」
座ると、スリットから白い脚が露わになっていた。
「確かに……」
酔っていたエリールは、スリットのことをすっかり忘れていた。
「そんなに目立つ?」
「大胆で目立つ。終わるまで上着をかけているといい」
「ありがとう」
気にかけてくれたことがほんのり嬉しくて笑顔を浮かべた。すると、突然、キャプスに抱き寄せられた。
「ど、どうしたの?」
「……いつも僕にまとわりついてくる令嬢が来ている」
耳元に寄せた唇がくすぐったい。言われたほうをチラリと見ると、こちらに厳しい視線を向けている令嬢がいた。
「ものすごく睨んでいるわ。キャプス様のことを本当に好きなのね」
「好きになられるほど話したことなんてない。ここはすまないが、少し憎まれ役になってくれ」
「まあ、いいけれど。もともと、そういう役目なわけだし」
「悪いね」
顔を寄せて話していると、ふとフェスタといた時のことを思い出した。
(こんな接近して話していたら、フェスタならすぐキスしてきたでしょうね──ってフェスタだったらって何よ。もう関係ないのに)
頭を振ると、キャプスに不審な顔をされた。
「始まるぞ」
オペラ歌手の歌声が会場に響き渡った。しばし、芸術の時間を楽しむ。
――1幕が終わって、休憩時間となった。
「私、お手洗いに行ってくるわ」
「ああ」
手洗い場に来ると、後から入ってきた人物に話しかけられた。さっきの睨んでいた令嬢だった。
「あなた、なぜキャプス様と一緒なのよ!?」
(サーブ伯爵家のネリー令嬢ね)
目はつり上がって、ものすごく怒っているのが分かる。
「キャプス様からお誘いされたのよ」
「あなた、フェスタ様に振られたのでしょう?キャプス様が、憐れに思ってお誘いになったのでしょうけれど、そこは断るべきじゃないかしら?」
「どうしてです?」
「どうしてって、あんたはたかだか、男爵令嬢じゃない。キャプス様と釣り合わないぐらいわかるでしょう?馬鹿な女ね」
「馬鹿な女ですって?」
「能天気女とも言うわね。とにかく、どうしようもない最低女ってことよ!」
大して話したこともないのにボロボロに言われて、さすがにエリールも頭にきた。
「最低女?そっくりそのままお返しするわ」
「何ですって?」
「だって、いきなり人のことをののしって偉そうにする人がどうしていい人だと言えるの?」
「あんたと私とでは身分が違うでしょ!」
「私だって貴族の端くれよ」
「うるさいのよ!男爵令嬢がこんなドレスなんて着て!」
ネリーがドレスを引っ張ったので、思わず手を振り払った。
「やめて!これはキャプス様がプレゼントしてくださったドレスよ。触らないで!」
「キャプス様があんたのために……?」
ギリギリと歯をくいしばるネリーの顔がこわい。
「生意気なのよ!!」
ネリーが絶叫すると、扇でエリールの頬を勢いよく叩いた。
バチン!という音がして目の前がチカチカした。
「な、なにするのよ!痛いじゃないの!さすがにひどいわ!こんなことをする人をキャプス様が好きになると思っているの!?」
「黙んなさいよ!もう1発お見舞いしてやる!」
エリールは急いでお手洗いから逃げ出した。
(なにあの狂暴な人は!)
息を切らせて座席に戻ると、キャプスの顔色が変わった。
「……その頬の傷はどうした!?」
キャプスの声が、いつもより低く鋭く響く。
「お手洗いで……ネリー令嬢に扇で叩かれたの。言い返したけど、怖くなって逃げてきたわ」
キャプスは何も言わず、エリールの顔にそっと手を伸ばした。頬に触れられた手が温かくて心地よかった。
「……擦り剥けて赤くなってる」
彼の目が、傷を見つめていた。怒っているようだ。
「女性の顔に傷をつけたなんて……許せないな」
「私が男爵令嬢なのも余計、気に食わないのね。……まあ、確かに釣り合わないけれど」
「男爵令嬢だからなんだ。僕が選んで君を連れて来たんだぞ」
彼の手が頬から離れて──顔が近づいてくる。エリールは息を呑む間もなく、頬にそっと口づけられた。
エリールは驚きで身体を硬直させた。
「君に傷をつけたこと、きちんとやり返すから」
キャプスがエリールを抱き寄せながら、とある方へとゆっくりと視線を向けた。
先には──席に戻ってきたネリー令嬢の姿があった。
彼女は、エリールの頬に口づけるキャプスの姿を見て、目を見開いて立ち尽くしている。
「君、覚悟しておいてくれよ。僕の愛しい人に傷をつけて、許すものか」
ネリー令嬢は、顔を青ざめさせると扇をカタリと床に落とした。彼女は拾うこともせず、震えながらその場を離れていった。
(この人の言葉1つで、あんなにショックを受けるなんて……)
先ほど、ネリーに叩かれて恐怖を感じていたエリールは、キャプスの腕の中で、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
「ありがとう。守ってくれて」
「当たり前だ。許すものか」
いつものクールな表情に戻ったキャプスだが、まだ言葉には怒りが含まれている。
エリールは改めて、キャプスは“頼れる人”なのだと認識した。
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浮気された変身令嬢が、裏組織のボスと恋人契約したら 大井町 鶴(おおいまち つる) @kakitekisuto
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