Temokin
ヤマ
Temokin
線路脇で、男は立ち尽くしていた。
暴走した貨物列車が迫り、分岐の先には、計六人の人影。
左の線路には、五人。
右の線路には、一人。
分岐を切り替えるレバーに手を掛け、六人を観察する。
切り替えなければ、五人が死ぬ。
切り替えれば、一人が死ぬ。
彼は少し考え、そして———
レバーから、手を離した。
悲鳴と金属音が響き、五人の身体が弾け飛ぶ。
生き残った一人は尻餅を突き、震えながら、彼を睨みつけた。
「なんで、あいつらを助けなかったんだよ……!」
彼は、無言で歩み寄り、落ちていた誰かの持ち物を持ち上げる。
適度な重量のある機械だ。
それを振り被り——助かった一人の頭に叩きつけた。
何度も、何度も。
くぐもった悲鳴と鈍い音。
そして——沈黙。
その場に残ったのは、物言わぬ肉塊となった六人と、黙って立つ男だけだった。
やがて、現場に駆けつけた警官が、彼から一通りの事情を聞き、尋ねた。
「……何故、生き残った一人まで殺したんだ?」
顔に付いた返り血を拭い、彼は静かに答えた。
「……あいつら、黄色い線の外側で、笑ってたんだ」
そう言って、男——駅員は、凶器となったカメラを踏み潰した。
レンズには、誰の笑顔も映っていなかった。
Temokin ヤマ @ymhr0926
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