いきをする

テレ

 生きていける気がしなかった。息をしている気が、しなかった。

よく晴れた秋の日、秋、そうだ。秋といえば、もう日本から四季がなくなってしまうんじゃないか。紅葉も見れへんくなるんかな。あ、銀杏いちょうも好きやねんけどな。秋がなくなることが、不安。不安、不安。あ!今でっかい隕石とか落ちてきたらどうしよう。それで人類で私だけが生き残ってさ、あぁ、生きてかれへんな。あぁ、不安だ。



私はずっと、不安だった。なんだっけ、なんでだっけ。



 スマホを見る。通知が二件来ていた。

ひとつは雪から、もうひとつはサツキさんからだった。

雪は中学からの仲で、私が‘親友’と呼べる唯一の友だちだった。初めて雪と喋ったとき、この子とは仲良くなりたいと強く思って、そのあと思った通りに仲良くなることができた。




 中学時代、雪とは毎日どうでもいいことで笑った。ほんとうにどうでもいいことで。


「かすみ、昨日のお月様、みた?私笑っちゃった。」

「雪、お月様みて笑うってどういうことなの」

「え〜、ふふって感じだよ、ほら、お嬢様みたいに!」

「雪はお嬢様だったのか!おかえりなさいませ、雪。」

「ちょっと、お嬢様に対して呼び捨てなの?かすみくん?」

「雪にお嬢様は似合わへんね、お嬢様ってもっとお淑やかやで」

「はぁ〜!?私がお淑やかじゃないって???」

雪は怒った顔をしながら、ちょっと嬉しそうに笑っていた。私も、笑った。


私は、かすみ、雪と呼び捨てで名前を呼べることが嬉しかった。たまらなく、愛おしかった。

 そういえば中学卒業の日、手紙を交換したことを思い出した。

私は手紙を書くのが苦手。でも、好きだった。

「私、雪と高校別なのが寂しい。もう学校に行っても雪はいなくて、おはようって言えないのが寂しい。高校に行ったら雪のいちばんの友だちが、私じゃなくなるんじゃないかって怖い。」

手が止まった。雪のこととなると、止まることを知らない私の列車が、止まった。そして心の中で言った。


「雪のいちばんの友だち。雪にとって私っていちばんなの?仮にそうだとしても私重いって思われちゃうかな。」


消しゴムで、消した。この手紙のために買った茶色いかわいい便箋。ちゃんと消したけど、なんとなく怖くなって捨てることにした。そして新しい茶色の便箋に「雪へ」と書いた。



「あ、通知。」


私はもう三年も前のことを鮮明に覚えているんだな、と思った。

雪からのメッセージには「かすみ、今から会えない?」とあった。

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いきをする テレ @teretesimau

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