ふたりの世界の邪魔はさせない

石田空

おとぎ話も積み重ねれば呪いとなる

「どうして私たち、とても仲がいいのに、周りはすぐに仲が悪い姉妹格差を描くのでしょうね」


 バラ園。手入れされたバラがアーチを伝って咲き誇り、中庭に芳香を漂わせている。

 その中、そっくりな顔の少女たちがお茶会をしていた。

 顔のパーツが全て同じ。日焼けに弱い真っ白な肌に、柔らかなクリーム色の髪、瞳の色は空色で、全体的に色素が薄い。ただ頬はバラ色、唇にはピンク色のリップを塗っているために、一気に妖精のような柔らかな雰囲気が漂っていた。

 ドレスはエンパイヤドレスであり、全体的に凹凸のないドレスだ。おかげで余計にこのふたりに妖精のような華やかさと儚さを与えていた。

 バラ園でのお茶会のお菓子は、ケーキスタンドを使わず、大きな皿にこんもりと乗せる形で並べられている。

 スコーンは山盛り乗せられ、横に添えられているバターとラズベリージャムと食べると抜群に美味い。他にはショートブレッド、ヌガー、シュガータルトと並んでいる。

 それらをフォークも使わず、手掴みで割ってジャムを塗りたくると、それをはむと食べている。そしてティーポットにたっぷりとつくったお茶で楽しむのだ。


「なんでも、双子が不吉だった時代があったんですって」

「それっていったいいつ?」

「さあ。そして双子は不吉だから、忌み子として片方、もしくは両方、殺されていたんですって」

「今はそこまで野蛮な時代じゃないじゃない」

「そうね。でも勝手に双子を凶兆ってしたんだから、周りからしたら存在してないものなのよ。存在してないものには、好き勝手してもいいんですって。ご存じ? 醜男で知られる男だって、うん百年経ったら美丈夫として女性に褒めそやされる物語が流行るんですって」

「悪趣味じゃないですか。そもそも醜男で知られている方の顔を美しくしてしまったら、その方の人生全否定じゃなくて?」

「いないものは好き勝手に扱っていいそうよ。失礼しちゃうわ。私たち、存在してるじゃないですか」


 周りは双子をビクビクしながら見守っているが、双子は意に介することがない。

 ふたりの会話はショートカットが過ぎて、傍から見ると魔法でも使っているかのようだ。実際のところ、ふたりとも特になにもしていない。ただ生まれた時から一緒にいる相手のことが、他人より……それこそ両親よりも……なにを考えているのかわかるだけである。

 そんなに仲のいい双子だったからこそ、親の突然言い出した話が許せなかった。


「だから、私たちはいないものとして扱うような者には興味がないの」

「連戦連敗。いったいどうなっているのかしらね」


 ふたりがちらりと見た先には、【罰ゲーム】と書かれた部屋がある。

 そこにふたりは婚約者たちを閉じ込めていた。

 両親はそろそろふたりにも婚約者を宛がおうと見繕ったのだが、その相手その相手がことごとく失礼だったのだ。


「僕は君のことがわかるよ。どこにいても、どんな姿をしていてもわかる」


 双子は全く同じ格好をして婚約者を出迎え「どっちでしょうか?」とした。

 間違えたので閉じ込めた。


「双子だなんて……お姉さんにいじめられてないかい?」


 三文小説を信じるだなんて信じられない。

 やってきて早々腹が立って閉じ込めた。


「なんだかこの領地は評判がよろしくないようだね。大丈夫、うちにおいで。君を逃がしてあげるから」


 余計なお世話だ。いったいなにから逃がそうとしているのか。

 逃亡の準備にときめいていたところを捕まえて閉じ込めた。

 双子が婚約者たちに難癖を付けては閉じ込めるので、とうとう両親は見かねて声を上げた。


「やめなさい。子供の癇癪は。婚約者たちを解放しなさい。彼らの親は怒っているだろう」

「どうして私たちが譲歩しないといけないんですか?」


 双子は全く同じ顔をしていた。その顔を見た途端、両親の背筋が凍った。

 のっぺりとした顔にはなんの表情も浮かんでおらず、化粧をしているにもかかわらず人形のような顔にしか見えなかったのだ。


「私たちは離ればなれになるのが嫌です。でもあなた方の命令ですから、仕方なく見合いくらいはしてみようと思ったんですが、なんですか。あの嘘つきたちは」

「私のことを幸せにすると言っておきながら、私たちを離ればなれにしようとする。人の物語を信じ込んで、私たちを引き離すことが幸せだと信じて疑っていない。本当に嫌で嫌でしょうがなく、親の顔を立てて受けた見合いの上での言葉を本気で信じて」

「だから閉じ込めました。餌はあげていますが、他は知りません。ひとりくらいは死んでいるかもしれませんね」

「まあ大丈夫でしょう。私たち、ふたりでいればだいたいのことは大したことがありませんし」


 普段であったら区別の付く双子の区別が、両親にすら付かなくなっていた。

 呪詛のような言葉を言ったのは、どっちがどっちなのか。だんだんと目眩を覚え、とうとう両親は倒れてしまった。

 双子は両親すらも閉じ込めて、外から鍵を閉めてしまった。


 この領地では、たびたび魔力の強い子が生まれる。それが双子であったのならば、なおのことだ。双子はふたりで力を合わせれば、異界だってつくれてしまう。

 双子が婚約者たちと両親を閉じ込めた部屋は異界と化し、よっぽど魔法に長けたものでなければ出られなくなってしまっていた。

 それどころか。

 婚約のストレスが溜まった双子は、両親を閉じ込めたことでタガが外れ、とうとう領地全体を異界へと変えてしまった。

 外から隔離されてしまったこの異界では、双子が絶対的なルールであり、双子に逆らえばたちまち【罰ゲーム中】と可愛く書かれた部屋に閉じ込められてしまう……あちらのほうがよっぽど過酷な異界だろうに。


「私たちを引き離そうとする世界が悪いのだから」

「悪い世界からは逃げてしまいましょう」


 異界の魔女。

 外の世界では双子の魔女のことをそう呼ばれているのだが、そんなこと双子にとってはどうでもいい。

 正義感の強い者が、隔離された世界にやってきて異界に閉じ込められてしまった人々を助けるまで、あと数百年は待たないといけない。

 双子はそれまでの人生を謳歌するまでだ。


<了>

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ふたりの世界の邪魔はさせない 石田空 @soraisida

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