カメラは見ている
五來 小真
カメラは見ている
「防犯カメラの義務化に署名お願いします」
街頭で署名活動が行われていた。
『義務化か……』
最近、近所で泥棒が入ったニュースを思い出した。
防犯カメラがあったなら、すぐに捕まったのではないだろうか?
私はそれにサインした。
『防犯カメラ義務化の署名を受け、政府は案を成立させることにしました』
通勤前の朝飯を食っている際、そんなニュースを耳にした。
やはりそういう要望が多かったのだろう。
『防犯カメラを国民全員に配布することに——』
——いいじゃないか。
やっぱり個人で買うってのはハードルが高いからな。
やがて待望の防犯カメラが届いた。
何でも最新の機能が積まれているとの噂だったが、届いた時のお楽しみとかで全く情報がなかった。
箱を開けると、レトロなフィルムカメラのような形のカメラが出てきた。
カメラはスイッチを入れる必要もなく、空中へと飛んだ。
「すげーな。——よろしく」
そう声をかけてやると、カメラは嬉しそうにはしゃぐ犬のように左右にホバリングした。
「じゃあ家の前でも見張ってもらおうかな?」
カメラは首を左右に振るように嫌がった。
「え? じゃあどこが……」
カメラは私の返事を待たず、勝手に家の奥へと飛んでいく。
右へ行ったり、左へ行ったり。
何が面白いのか、廊下を見ている。
いや、あの様子は犬だな。
昔飼っていた犬も、見慣れぬ家ではそうだった。
あいつに鼻はないんだが……。
一通り回ると気が済んだのか、カメラはゆっくりこちらへ戻ってきた。
「気は済んだか?」
カメラは私に頬を擦り寄せるように、体を擦り付けた。
「なんだ、私が良いのか。……いや、お前防犯カメラだろう? もっと別の場所を見張った方が」
カメラは私をじっと見上げてくる。
「ったく、しようがないな」
それからカメラは私にずっと付き添った。
カメラは人懐っこく、私以外の人間にもすぐに打ち解けた。
それは良いのだが、一つ問題があった。
勝手に中の映像を人に見せてしまうのである。
妻に見せていた映像に、わたしが保存してあった妻からのラブレターが映りかけた時には肝を冷やした。
『あの試合、どうなったのかな。ちょっとだけ……』
仕事中、私がスマホを見た時のことだった。
視線を感じそちらを見ると、カメラが私を見ていた。
そこに課長が戻ってきた。
カメラはそのまま課長の元へ飛び去ろうとする。
「ちょ、ちょっとカメラ——!」
カメラはこっちを向くものの、近寄っては来ない。
仕方なく、カメラに両手を合わせて頭を下げる。
するとようやくカメラはこちらに戻ってきた。
うかつな動きをされないように、しっかり確保する。
そうか、これが政府の防犯か。
個人レベルのカメラであれば、確かにこの方が効率は良さそうだ。
こちらを見るカメラに、いつもの愛らしさは全く感じられなかった。
<了>
カメラは見ている 五來 小真 @doug-bobson
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