君へのブルーサルビア ー永遠の愛ー

@chisakichi

第1話 変われない

大学一年の春。

市川紫苑(いちかわ・しおん)は、どんな人とでもうまくやれる「明るくて愛されキャラ」として、ずっと生きてきた。

でも、それは彼女が磨き続けてきた“外側の自分”でしかなかった。


本当は、人に嫌われるのが怖くて、感情を言葉にするのも苦手で。

誰かと深くつながることを、ずっと避けてきた。


そんな自分を変えたくて、「留学できる大学」を選んだ。

留学すれば何かが変わるかもしれない。

新しい自分を見つけられる気がした。


「お母さん、行ってくるね。なりたい自分になってくる!」

そう意気込んで始まった、私の留学生活。


同じ大学から同じ留学先に行く子たちに、空港で初めて会った。

ほとんどの人が初対面で、不安で仕方なかった。

けれど、その不安は一瞬で消えて、すぐにみんなと仲良くなれた。


その中でも、私を含めた三人で行動することが多くなった。

どこへ行くにも、三人一緒。

ルームメイトの尾上香音(おのえ・かのん)と、隣の部屋の谷原采音(たにはら・あやね)。


――この三人で、ずっと仲良くやっていくんだ。

そう思っていた。


けれど、ある日ふと気づいた。

あれ? もしかして、私、避けられてる……?


そう思ったのには、理由があった。

いつも授業が終わると一緒に帰っていたけれど、香音と私は同じクラス。

采音だけが別のクラスだった。

だから香音が采音に「授業終わった?」と連絡するのはわかる。

でも、同じクラスの私には声をかけず、先に教室を出て行ってしまう。


「え……? 私、何かしたかな?」

頭の中でぐるぐる考えても、思い当たることはなかった。


海外では一人で帰るのは危ない。

だから香音に避けられていると気づきながらも、私は必死に一緒に帰った。


やがて、私は悟った。

――香音は、三人じゃなくて采音と二人でいたいんだ。


その瞬間から、私は“空気を読む”ようになった。

二人席なら、私は当然のように一人で座る。

二人だけがわかる話をされても、笑顔を崩さず聞き役に回る。

やがて香音は、采音だけを誘って遊びに行くようになった。


外から見れば、三人仲良し。

でも、内側の私はボロボロだった。

誰にも本音を言えず、笑顔の仮面で必死に取り繕っていた。


ある休日、二人が出かけてしまった。

ひとりきりの時間。

暇を持て余した私は、通学途中にいつも「きれいだな」と思っていた近くの病院の庭園に行ってみることにした。


季節の花々が咲き誇る庭。

その中で、ひときわ目を引く花があった。


――ブルーサルビア。


「え?」


「その花の名前。」


振り向くと、私と同じくらいの年の日本人の男の子が立っていた。

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