鏡のない世界
和翔/kazuto
本編
「おいおいお前その顔はないわ!!」
後輩のチェキを覗き見て爆笑が止まらない。
そばかす塗れの顔にフリフリの衣装の無様な姿をしたアイドル。その隣に写るのは後輩、彫刻刀で掘ったような顔の形に嘲笑が溢れてくる。
「なんだこの……クフフっ」
「い、いいじゃないですか! 推しのアイドルですよ!」
「あー悪かった、悪かったって!」
チェキを返すと椅子に座り込む。
後輩が仕事の休憩中に見せたいものがあると言い出したときは驚いた。まさかこれを見せたがっていたとはな。
「あー、ありがとう。ちょうど今朝スマホが壊れて暇してたんだよね、いいもん見せてくれたよ!」
「スマホが壊れた?」
「そう。スマホの画面、緑色に染まってな」
緑に染まった画面を後輩に見せつける。
「な、なんすかそれ」
「知らねぇよ、どうしても直んねぇんだわ」
俺はそのせいで髪型も整えられず、朝は怒りが止まらなかった。
後輩のきょとんした顔を見ているとその感情を思い出す。
「おい、お前のスマホ貸せ」
「え、嫌ですよ」
「いい、貸せ。前髪整えるだけだからよ」
そう言って後輩が握っていたスマホを取る。
しかし画面は一面緑。俺は不快感を抱く。
「はぁ? なんだこれ、お前も同じ症状か?」
「どういうことすか? 先輩どうしちゃったんすか」
「どうもこうもねぇよ」
この怒りを止めるべくトイレへと向かうと、壁一面の鏡を睨みつける。
鏡の中には、後輩がこちらを指差して笑っている。
「あ、先輩! 前髪、もうちょい上げた方がいいっすね!」
「はっ?」
なんだ? なんで鏡の中にあいつが……
激しく目を擦り、再度鏡を見る。
一面の緑の壁。
「先輩」
声のした方を見ると、見慣れた後輩がいた。
「どうしちゃったんすか……」
「ど、どういうことだよ! 何が! なにかが……」
後輩の声がとめどなく聞こえる。何だこれは? 後輩は口をあんぐりと開けて動いていないぞ。
これは幻覚か? どうしてこうなった?
癖で右のポッケに入ったスマホを手に取り「幻覚」と検索すると、自分の顔が映し出された。
よ、よかった。やっと顔がスマホに写った。
「これが、この顔がっ!」
聞いたことがある。鏡の本来の色は緑だと。
鏡は緑の光をより反射すると。
そうか、これが俺。
これが自分の今の姿なのか。
鏡のない世界 和翔/kazuto @kazuto777
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