星のかなたの ぼうえんきょう
霜月あかり
星のかなたの ぼうえんきょう
ある夜のこと。
ユウくんは、おじいちゃんにもらった小さな望遠鏡をのぞいてみました。
カチリとレンズを回すと――
月の表面にぽっかり空いたクレーターが、まるで眠っているドラゴンの巣のように見えました。
星座をのぞくと、きらきら光る星たちが手をつなぎ、夜空でおどっているようにも見えます。
「わあ……ほんとうに宇宙の窓みたい!」
ユウくんの胸はどきどき。
すると、望遠鏡の向こうがふわっと虹色に光りました。
次の瞬間、ユウくんは光の中にすいこまれて――
気づけば、星の道の上に立っていました。
「ここ、どこだろう……?」
見上げれば、月が微笑むように輝き、
見下ろせば、無数の星々が川のように流れています。
そのとき、小さな光の精が宙に浮かびました。
「ようこそ、星のかなたへ」
振り向くと、望遠鏡そのものが小さな光の精となり、宙に浮かんでいました。
「さあ、のぞいてごらん」
差し出されたレンズをのぞきこむと――
あれ? さっきと違う!
地上から見た月はただのクレーターだらけの表面だったのに、
ここから見ると、まるで大きなやさしい顔が浮かび、静かに笑っているように見えます。
そして星座たちは、線で結ばれた点の集まりではなく、
ほんとうに獅子がたてがみを揺らし、魚が星の川を泳いでいる姿に変わっていました。
ユウくんは目を丸くしました。
「同じ月や星なのに……場所が変わると、こんなにちがって見えるんだ!」
光の精はにっこりとうなずきました。
「そう、見る場所が変われば世界も変わる。
でもね、どんなふうに見えても、みんな同じ宇宙の仲間なんだよ」
さらに望遠鏡をのぞくと――
そこには青く丸い星、地球が見えました。
「えっ? ぼく、あそこにいるのに……どうして見えるの?」
光の精は静かに答えました。
「遠くから見ると、君の星の美しさがよくわかるんだ。
君の家も、友だちも、遊んだ公園も――すべてが地球の宝物なんだよ」
ユウくんは胸の奥がぽかぽかしてきました。
「そっか……ぼくの毎日も、この星の大事な一部なんだね」
その瞬間、星の道がきらめき、光がユウくんを包みこみました。
気づけば、また自分の部屋の窓辺。
望遠鏡のレンズは静かに光をおさめています。
ユウくんは夜空を見上げ、にっこり。
「ありがとう、ぼうえんきょう。
これからも、ぼくの星をたいせつにするね」
夜空の星たちは、まるで返事をするように、いっそうきらきらと輝いていました。
星のかなたの ぼうえんきょう 霜月あかり @shimozuki_akari1121
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