第20話王都と審問とおじさん
石畳の大路を馬車が進む。視界いっぱいに広がるのは高い城壁と白亜の塔。
――王都だ。
俺とリーナ、セリアは馬車を降り、荘厳な門の前に立った。
「これが……王都」
リーナが息を呑み、セリアは警戒の色を崩さない。
周囲の視線が冷たい。田舎の村からやってきた布教者とその従者――そう見られているのだろう。
俺たちは文官に案内され、重厚な扉を抜けて議会の大広間へ。
石柱が林立し、円卓の周りには議員たちがずらりと並んでいた。
誰もが威厳に満ち、視線は鋭い。
「これが“レンアイ”の布教者か」
「村人の心を惑わせ、混乱を生んでいると聞く」
「是非をここで審問する必要があるな」
ざわめきが広がる。リーナが不安げに袖をつまむ。その手を握り返し、俺は一歩前に出た。
「俺は、この世界に存在しなかった“心の言葉”を伝えてきました。名は“レンアイ”。――一人を“特別中の特別”として選び、互いの合意をもとに育てる関係です」
議員の一人が鼻で笑った。
「愚かだ。選ばれなかった者はどうする? 不公平が争いを生むだけではないか」
俺は深呼吸をし、答えた。
「確かに、不公平です。だからこそ価値がある。全員を同じに扱うなら、誰も“本当に大切”にはできない。一人を選ぶ勇気が、人を強くするんです」
別の議員が問いを投げる。
「ならば、それは“所有”や“独占”と何が違う? 人を物のように扱う道具ではないのか」
俺は首を振り、胸に手を当てた。
「違います。物は奪えるが、人は奪えない。“レンアイ”は契約ではなく、行いで示すもの。触れるときは『触れていいか』と尋ね、拒まれたら止まる。――それが“レンアイの
ざわつく議員たち。中には唇を噛む者もいる。
その時、一人の老議員が静かに言った。
「では証を見せよ。言葉だけでは空虚だ」
広間に視線が集まる。リーナが小さく俺の袖を引き、囁いた。
「旅人さま……」
その瞳は震えていたが、逃げようとはしていなかった。
俺は頷き、議員たちに向かって言った。
「証は、俺が選んだ一人と示します。公平ではなく、不公平だからこそ守れるものがあると」
リーナの手を取り、静かに握った。
広間に静寂が落ちる。
「これが“レンアイ”。不安も嫉妬も生む。だが、それでも人を大切にできる心の名です」
ざわめきが再び広がり、議員たちの表情は硬いまま。
だがその中で、何人かの瞳には確かに“揺らぎ”が宿っていた。
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後書き
第20話では、ついに王都に到着し、議会での審問が始まりました。
“公平”や“所有”といった厳しい追及を受けながらも、おじさんは“レンアイ”の本質を堂々と語ります。
リーナを選んで示すことで、議員たちに初めて“言葉ではなく行い”として伝えることができました。
次回は、議会でさらに厳しい質問や反対が突きつけられ、王都での布教が最大の試練を迎える場面を描きます。
童貞おじさん異世界来たけど、そこは恋愛の概念が一切存在しない世界だったので布教活動したいと思います 髙橋ルイ @rui78936
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