七月のパイナップルジュース

浅川 六区(ロク)

700文字程度の小さな物語

「七月のパイナップルジュース」


「おはよー菜々美!」 夏⼦は⾃分の机にランドセルを置くと、

隣の席に座る菜々美に声をかけた。


「あ、夏ちゃん、おっはー。朝から元気だねぇー」

「まあねー、昨⽇でやっと六⽉も終わったし、今⽇から七⽉だもん。

七⽉はわたしの⼀番⼤好きな⽉だしねー」夏⼦は笑顔で答える。


「でも夏ちゃんはさ、 六⽉⽣まれでしょ?七⽉ではなくて、

六⽉が夏ちゃんの好きな⽉なのでは?」と菜々美は不思議そうに訊ねる。

「うん。わたしは六⽉⽣まれだけど、…でも七⽉が⼀番好きなの」


「ふーん…なんで?」

「だって、七⽉はわたしにとって、思い出の…特別な⽉だから」


今から五年前、夏⼦がまだ⼩学⼀年⽣だったある⽇―――

「ねえねえ、おかーさん」

「なあに?なっちゃん」


「おかーさん、このじゅーすのむ?」夏⼦は、飲みかけのパイナップルジュースが⼊ったグラスを⺟のまゆみに差し出した。

「ううん。おかあさんはいらないよ。それはなっちゃんのジュースだから、なっちゃんが全部飲んで良いんだよ」


「ちがうの、 イヤなの。 このじゅーす、 すっごくおいしいから、 おかあさんにも

のんでほしいの」ほっぺたを膨らます夏⼦。

「うーん、でもおかあさんは、いらないよお」


「えーー、 じゃあさあ、 じゃあさあ、 こうしようよ。 わたしがね、 なわとびを

⼆⼗回とべたら、そうしたら、このじゅーすをのんでよ。ほんとにほんとにおいしいんだから。ね」

「そうなの?なっちゃんがそこまで⾔うなら…じゃあ、早く⼆⼗回、⾶べるようになってね」ふふふと笑う⺟のまゆみ。



――――⼆ヶ⽉後の七⽉⼀⽇。

 夏⼦と⺟のまゆみが楽しそうにパイナップルジュースを飲んでいる姿を⾒て、⽗の健太が嬉しそうな笑顔で会話に加わる。


「そのジュース美味しそうだね。俺も飲みたいな。⼀⼝ちょうだい」

「ダメ」

「絶対イヤ」彼⼥らは声を揃えてそう⾔った。

                            

                                Fin

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七月のパイナップルジュース 浅川 六区(ロク) @tettow

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