道端の花束

ǝı̣ɹʎʞ

道端の花束

 連立の街燈の光が、微風に揺れる。

 私たち以外は誰も通らないというのに、莫迦正直に、ずっと、光を宿している。

 繋ぎ目の錆びた大きな橋を、二人。気分が良くって、踊り出す。一歩々々が牛歩みたいに、彳亍てきちょく。行っては、戻って。あはは、と、人目も憚らず、大声で笑う。

「ほんっと、ばかみたい」

 あまりに可笑しくって、言葉が零れる。そうしたら、ポールを掴んでくるくる回る、真っ白なドレスを纏った彼女、橋の縁まで躓いて、まだまだあはは、と笑ってる。

「もう、ぜーんぶうんざり!」

 八センチ、紅色のヒール。踊る彼女には邪魔でしかなく、彼女はヒールの両方を片手に携え、両手を広げ、下手なタップを踏み、まだ踊る。

 ——莫迦二人。酒を飲むように浴びて浴びるように飲んで、終電を逃して、橋の上で踊り狂う。ヒールが艶めかしくて、街燈の反射に目が痛む。「赤い靴」——。童話にあったな。

「どこ見てるのー!」

 手を引っ張られる。強引に。私は慣性に抗って、髪がふわりと微風に浮く。ああ、心地の良い。

 二人、千鳥足で、橋の柵に乗り、直下は墨汁みたいな黒い川。たまに道路を過る車が、私たちの鳥肌を追い風で煽る。

「いっしょなら、こわくないよ」

 囁きが、天使の歌声のような旋律で、悪魔のように誘う。

 私の手は確かに震えているけれど、彼女に握ってもらっているから、大丈夫。

 約束した。どんな顛末が迫っても、二人の息は一つだと。

 さぁ、一思いに、踏み出すだけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

道端の花束 ǝı̣ɹʎʞ @dark_blue_nurse

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ