僕は君を見ている。

青キング(Aoking)

僕は君を見ている。

 僕は君の事をなんでも知っている。

 金曜日に夜更かししていることも、深夜に冷蔵庫から水を取り出すことも、最近お米を控えていることも、落ちている自分の髪の毛を拾ってゴミ箱に捨てていることも、僕だけは知っている。


 だって毎日、君の事を見ていたから。


 君は僕をこれまで一度も見たことがなかったかもしれないけれど。

 でも、それは仕方ないんだ。君は僕に興味なんてないんだから。


 数か月前に身体の関係まで持った男性と疎遠になったことも、僕は気付いていた。

 今の君に付き合っている人がいないと思っても、僕は君の前に姿を現さなかった。

 だって僕には君の事を見ていることしか出来ないから。

 ちょっと勇気を出して君の方へ近づこうとしても、やっぱり怖くて近づけなかった。


 でもいいんだ。

 君のことを知っている。それだけで僕は困らないんだ。


 今もこうして陰から君の事を見ている。

 今日の君はちょっと機嫌が悪そうだ。なんだかとても悲しそうで、それでいて寂しそうな顔をしている。

 美味しそうな物を食べているけれど、僕には君が何を食べているのかはわからない。

 でも君が美味しそうな物を食べてくれれば、それだけで僕はこれから何日も君の事を見ていられる。

 君がベッドでぐっすり寝ているのを見ても、僕は安心できるんだ。

 ああ、僕は明日を迎えられるんだって。


 君の行動一つ一つが僕に力を与えてくれている。

 だから僕は君の事を見ていたいし、君の事を知っていたい。

 僕は君を見ていたいから、今いる場所から遠くへは行かないつもりなんだ。

 だけど僕の事は絶対に探さないでください。僕の方からも君のことを探すことはしません。


 あ、今食べ物の入っていたプラスチックをゴミ箱に捨てたね。


 そんなことまで僕は見ているんだ。毎日僕は君が何を食べているのか気にしているんだよ。だって君が何も食べないでいたら、僕だって辛いから。

 天井の照明を消してくれたね。僕の所から君が部屋から出て行くのが見えたよ。

 でも僕は君を追い掛けはしない。

 明るい所ではどうしても、君の前に出ることはできないんだ。


 びっくりさせてしまうから。


 腰をぬかした君から逃げたとしても、僕は明るい所だと上手く逃げられる自信もない。

 もしも君に近づいたとしても、もの凄く怖がらせてしまうだろう。


 だって僕はゴキブリだから。

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