季節紡ぎの小屋
sui
季節紡ぎの小屋
町はずれの丘に、小さな小屋がありました。
そこには四季を織る不思議な老人が住んでいて、人々は彼を「季節紡ぎ」と呼んでいました。
老人の仕事は、ひとつの季節が終わるとき、その残り香を糸にして巻きとること。
春なら花びらの匂い、夏なら蝉の声、秋は落ち葉の赤、冬は吐く息の白――。
集めた糸をひと晩かけて織り上げ、次の季節の入口に静かに差し出すのです。
ある年、秋が終わろうとするとき、一人の子どもが小屋を訪れました。
「どうして季節は変わるの?」と尋ねると、老人は糸を見せながら答えました。
「ひとつの景色をずっと抱きしめていたら、やがて重たくなってしまう。だから手放して、新しい糸を受け取るんだよ。」
子どもはしばらく考え、織りかけの布にそっと手を触れました。そこには、赤や金色の葉っぱがまだ揺れていて、不思議と胸が温かくなりました。
次の朝、初雪が町に降りました。子どもは空を見上げながら、心の中で老人の言葉を繰り返しました。
――「手放すから、また巡ってくる。」
そして雪の向こうに、かすかに春の芽吹きの匂いを感じたのです。
季節紡ぎの小屋 sui @uni003
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