3つの石のメッセージ

白座黒石

3つの石のメッセージ

 卒業式の賑わいを抜けると、あいつは校庭の端にいた。

 数ヶ月ぶりに見る顔は痩せていたが、目の奥の茶目っ気だけは昔のままだった。


 俺が近づくと、あいつはそっぽを向いて「来なくてよかったのに」と、ぶっきらぼうに言う。相変わらずのそっけない態度に、俺はなぜが胸が熱くなった。




 2人で公園のブランコに並ぶ。夕焼けが遊具を赤く染め、風があいつのスカートを小さく揺らした。


「なあ、なんでずっと学校に来なかったんだ?」

「教師から言われて知ってるだろ、ちょっと病気になってたんだって。友達なのに、そんなことも覚えてないのか?」


 そう言うあいつの頬は膨らんでいる。


「病気って、何の病気だったんだよ? 大丈夫なのか?」

「今は元気だ。心配すんな」


 あいつはそう言ってそっぽを向いてしまった。


 2人静かにブランコを漕ぐ。速さは同じはずなのに、どう言うわけかあいつの方がいつも先に風を受ける。俺はいつも一拍遅れる。追いつこうとするたび、逃げられてしまう。


 あいつは不意にブランコを止め、小袋に入った何かを渡した。指先がふれ、心臓が跳ねる。


 中身を取り出すと、出てきたのは三つの石。薄い青色の石、キラキラと輝く石、淡いピンク色の石だ。


「どうせお前は石なんかよく分かんないんだから、私が解説してやる。その青色のはターコイズ、キラキラしてるのはハーキマーダイヤモンド、意味は『別れ』『感謝』だ。ピンク色のはローズクオーツ。意味は流石にお前でも知ってるだろ」

「愛の告白だっけ?」

「ばーか、ちげーよ。純粋な友愛———そんだけだよ」


 あいつは俺の方を見ようともせず、夕陽を見つめている。その頬が赤みがかって見えるのは、きっと赤い夕焼けのせいだろう。


 あいつは夕陽の方を見つめたまま言う。


「引っ越すんだ。遠い遠いところに行く。しばらく会えなくなる」

「病気が治ったのに? どこに引っ越すんだ?」

「それは内緒だ。事情があるんだよ。会えなくなっても寂しがるな」


 どこか突き放すような言い方に、俺は少し不安を感じる。しかしあいつは決して俺のほうを見ず、行き先を口から告げることはなかった。




 数日後、あいつが亡くなったと知らされた。病気があいつを連れて行ったらしい。俺はブランコに腰を下ろし、ポケットから三つの石を取り出した。隣には誰もいない。


 夕焼けの赤い光の中、三つの石に唇を当ててみる。くだらないと笑うあいつの声が頭の中を掠めたが、その声をもう聞くことはできない。思わず目が潤んだ。


 俺は、石を手のひらで強く握る。何となくあいつの体温を感じた。


「お前の気持ち、ちゃんと受け取ったよ」


 少し震える声で呟く。あいつは『寂しがるな』と言った。なら、その言葉を胸に抱えたまま生きていこう。溢れかけていた涙は、すでに消えていた。


 俺はポケットに石を入れ、ゆっくりとブランコから立ち上がった。

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3つの石のメッセージ 白座黒石 @shirozakuroishi

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