第15話 『護衛』の失敗



「依頼が失敗!?蓑原さん死亡!?

どどどどど、どういうことですかっ!?

なんで蓑原さん蒼月さんが出ているのに失敗するんですか!?」



鏡坂とこころは『神社』へと戻り、

内宮連歌に護衛が失敗に終わった事を報告していた。


「蓑原は最初にやられちまったよ。三人の奇襲にあっちまってな。

その後は俺達が協力して倒して来た。しかしその後が……」


「この場合いくらもらえるんだ?」


「失敗したら報酬ゼロですよ!当たり前じゃないですか。こっちは大損害ですよ大損害!」

「半分ぐらいよこせよ!」

「むしろこっちがお金を貰いたいくらいですよ無職坂さん!」

「うるせえ!俺は『神社』の仕事で一生食ってくんだ!」

「なら依頼は必ず成功させてください!どうせ鏡坂さんが足を引っ張って失敗したんでしょう」


「そ、それは違うよ!むしろ足を引っ張ったのは私だった……」


こころが二人の会話に割って入った。


「相性が悪かった。私の壁が何の意味もなかったし……。

『人形』の攻撃も何も当たらなかった。

もっと『剥がす』という事をうまく使うべきだった

鏡坂さんは『振動』の神器をうまく使ってた。新しい使い方も見つけてたよ!


「おっ!そうだろ!どうだ連歌?俺はもううまくやってんだよ!」


「女子中学生に擁護される大人。情けないですね!

どんな内容でも成果ゼロに変わりありません!」


「成果もゼロではないかもしれないよ!」

「それはどういう意味ですか?」


「森の三人から回収した『神器』がある。

駐車場に置いてある車の中に置いてあるはずだよ。

警官に取られてる可能性も少しはあるけど、

そもそも警官は森で三人と戦ったことは知らない筈だから、

回収されずに残っている可能性は高いと思う」


「それなら野良所有者の『神器』は回収可能かもしれませんね。

黒服に取りに行かせますよ」


連歌が近くにいた側近の黒服に指示を出した。


「そういえば蒼月はまだ帰ってきてないのか?」

「そうですね。報告にはまだ来ていませんよ」

「よっぽど遠くに飛ばされたのか?

沖縄より遠いとなると海外か?

それとも、暗くて深い海の中か……」

「やめてよ!そんな訳ないよ!」

「そうだな。あいつがそんなくだらない事で死ぬわけねえ!」

「そう……だよね」


「ん?沖縄にいたんですか?依頼失敗してJCと沖縄旅行なんて通報せざるを得ませんが……」


「ちげえよ!『穴』に入ったら沖縄に飛ばされたんだよ!」


「それがあなた達を一人で打ち破った神器ですか?

知っていますよ『穴』の神器は。元々『教会』の人が持っていた神器です。

あの戦争で奪われたものです。やっぱり『地下室』の住民に授けられたんですね。

ただ――――やっぱり、私の知っている『穴』と少し違うようですね」


「少し違う?」


「ええ。神器はそれを接続する人間によって機能を変化させるのです。

教会の人が持ってた穴は地獄みたいな謎の空間と繋がっていて、

堕ちたら炎に焼かれて即死みたいな、恐ろしい神器でしたよ。

大分優しい機能になってて安心ですね!」


「マジかよ……じゃあ、一歩間違ってたら、

不良警官の言う通り地獄行きだったのか……。危なすぎ!」

「私も違いが出るのは知ってた。でも、なんでそんなに違いが出るのかな?」


「『神器』と言うのは元々、個人用なんですよ。

数千年前に存在した最初の持ち主個人の肉体にあわせて作っている。

だから持ち主に近い肉体を持つ人物が神器と接続しても死なないのです。

変な肉体的特徴を持っていると、接続しにくくて死にやすい神器になる。

子供用の神器もあるんですよ?もちろん子供以外が接続すると死にます。

これらの現象は前に言った通り……『生体構造学』と言う失われた学問によるものなので、

現代人では解析できません。今の科学力を遥かに上回るロストテクノロジーだからです。

確認もせず、とりあえず下級国民に接続してみて、

初めてその『神器』の適性の1つを知ることができるんです」


「最後にさらりとクソみたいな発言をしてるが、なるほどそういうことか」


こころは静かに手を挙げて発言した。


「あのう……」

「なんですか?こころさん」

「ゆのちゃんを探してはくれないでしょうか?なんとかして救出したいのですが……」


「おう!そうだそうだ!俺も行くぜ!失敗したまんまで黙ってられるかよ!」


「もちろん探すことはしますよ。いずれにせよ、どこにいるかですね……。

『あの男』がゆのちゃんをどうするかはわかりませんが、

とんでもなく悲惨な目にはあっているでしょう。

正直、生存はあまり期待しない方がいいかもしれません。

ゆのちゃんは大きな損失なのは確かです。

あの女の子の中に組み込まれていた『生物』と、『神器』はどちらも『神社』にとって貴重な物でした」


「だったらなおさらだ!すぐさま探ってくれよ!できるんだろ?」


「しかし、私は『それ』を失っても地位を失うことはない。

……『あの男』と関わるリスクを取るべきかどうかは難しいところですね」


「何だよ情けねーな!

お前自身は戦ったりしないのか?」


「しませんよ。上級国民ですから」


「でも、強いんだろ!?神器を3つ以上持ってるんだろ!!」


「まあ『穴』の神器ぐらいの相手なら勝つでしょうけど。

そういうものでもないでしょう組織のトップと言うのは……。

私個人としても『地下室』の住民とは関わりたくないですね。少なくとも100年間はね」



「組織のトップがびびってんじゃねえ!」


「うっ……」

「ちょっと鏡坂さん!」


こころが制止するも、鏡坂は止まらない。


「怖いからって逃げてんじゃねーよ!」

「そりゃ怖いですよ!鏡坂さんも『あの男』と関わればわかりますよ!」


「腰抜けの言い訳だろそんなの。

お前自分じゃ『あの男』には手も足も出ないと思ってんのか?」


「負けっぱなしは悔しいですよ。……私も考えてない訳ではないです。

『あの神器』を使えば『あの男』にも勝てるかもしれませんが……でも、被害が大きすぎますね」


「連歌が考えてるのはどんな『神器』だよ」


「言う訳ないでしょう。奥の手は誰も出さないものです。

……もうお話は終わりにしましょう。一応、ゆのちゃんの場所は探らせますから。

ただ時間はどれくらいかかるかもわかりませんし、

良い結果が得られる可能性は低いものだと考えてください」


「わかったよ。ちっとは待ってやる。ところで他の依頼はないのか?

このまま負けっぱなしで暮らしていく気にはなんねえな」


「『神社』にはありませんが、掲示板には他の世界宗教同盟の依頼がのってますよ。

暇なら参加してきてください。神器所有者はどんな依頼を受けてもいいのです。

それが『ルール』。

そして、どこの組織の長と仲良くなろうがいいんです。

それも『ルール』。

……私が気に入らないなら他の所に行ってそこの派閥に入ってもいいんですよ?

わ、私が………………私の事を負け犬だと思うのなら…………うぅ」


内宮連歌は大きな瞳から涙をぽろぽろと流した。

鏡坂は何かを言おうとしたが、奥歯をかみしめて言葉を留めた。

鏡坂は舌打ちし、『神社』を去っていった。

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神社と巫女と生物構造学 ディストピア鹿内 @mmmmmmmm

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