第14話 VS『穴』の神器 決着

鏡坂の立っている地面に突如『穴』が開く。


「うおっ!?クソが……」


鏡坂は『穴』に落ちる事を予想していたのでなんとか穴の淵にしがみついた。


「鏡坂さん!」


こころがあわてて鏡坂の腕を掴み、引き上げようとする。

しかし、この時こそ警官が待っていたタイミングなのだ。


「他人を思う気持ちは尊いねぇ~~~~~!

でも、それが裏目に出るんだよ!ははははははははははははッ!」


「ま、まさか!」


鏡坂を落とした穴を中心として、周囲を飲み込むさらに大きな穴を作った。

二重の『大穴』だ。

こころは鏡坂の腕を掴んでおり、鏡坂はこころを掴んでいる。

二人は仲良く落ちるしかない。


「うおおおおおおおおおおおおおお!」

「大丈夫!まだ諦めないよ!」


しかし、こころは人形を呼び戻しており、人形で自分を掴む。

なんとか鏡坂とこころも穴の底に落ちずに済んだ。


「なんだと!しつこいゴミ共め!粘っても無駄だぞッ!!」


警官は透明な『壁』に『穴』を開け、中に入ってくる。


「ふえええええええん!もうやめて!おじちゃんもうやめてよぉぉぉ!」


ゆのが警官の足にしがみつく。

しかし警官の行動には何も影響を与えない。

警官は足で思い切り人形を蹴飛ばし、

鏡坂とこころは『大穴』の底の底へと落ちていった。


「やったぞ!始末した!ははははははははははははは!」


こころが落ちていくと透明な壁も心を中心として地面に沈んでゆく。

そのままなら警官とゆのにひっかかって止まる筈だが、

警官とゆのに触れそうな部分だけ『穴』が開けられた。


「はっはっはっは!どうだ幼女Aよ!お前を守っていた者は皆殺しにしてやったぞ!!」

「うえええええええええええええええええええん!ひどいよ~!!」

「なーんてね。皆殺しなんて嘘だよ」

「えっ?」


警官は一つ大きな嘘をついていた。『穴』は単なる穴だ。

『地下室』は、この警官に地獄の穴を開くような大層な神器は与えていない。



「私は君さえ手に入ればいいのさ。私の『神器』の機能はくだらないものでねぇ~。

私ほどの大物に対して与えられた『神器』は、

訳の分からん『穴』を作りだすだけのちっぽけな力しかない。ま、落ちたらどこに行くかは知らんがね。

私の脅しと同じように、本当に地獄と繋がっていて、即死であればいいんだがなぁ~~~?

まあ人生とは、そう都合よくはいかないものだ。

私がもらった神器は実に弱い神器だ。

時間稼ぎにしかならん。

腐敗した世界をシンプルな世界に変えるにはさらに追加の『神器』が必要なんだ。

『あの男』の依頼をこなせば貰えるのだよ」



警官はゆのをむんずと掴んだ。


「は、はなしてっ!はなしてっ!おふねにのるの!のらなきゃいけないのっ!!」


ゆのの口にガムテープを貼り付け、手と足を小さな手錠で拘束した。


「むぐ!むぐぐぐ~~~~!」


「これで仕事は完了か。トラブルなく、スムーズに進行できたな」


警官は周囲にいる人間の内、ビデオカメラをずっと回している人物に近寄り、話しかけた。

その人物は若く、オレンジ色の髪をしたオッドアイの女である。


「映像は取れたか?オッドアイの人」

「問題ない」

「それはよかったッ!!『あの男』は喜んでくれるだろうか!?」

「わからない」


「はっはっはっはっはっは!!!面白い人だあなたは!!!」

「…………」


オッドアイの女は無表情で海の方を遠い目で見つめ、考え事をしていた。


警官は目の前で行われた激しい戦いを見て、すっかり怯えた野次馬達に話しかける。


「皆さま。ご見学ありがとうございます。最新の特撮技術と、本官の迫真の演技いかがでしたか?

今日の出来事は放送日まで秘密です!約束を破った人は公務執行妨害で逮捕いたします。本官は本気ですよ!

ご見学ありがとうございました」


警官は能面が張り付いたかのような気持ちの悪い作り笑顔を浮かべていた。

周囲の人間は、到底信じられないが……かといってこの非現実的な出来事を、

そのままおかしな事だと解釈する勇気もない。

警官の歪んだ笑顔を受け入れて、まばらに拍手するしかないのだ。






鏡坂は『穴』に落ちた後、長い落下の後に地面に叩きつけられ、気絶していた。

顔に心地の良い風があたり、目が覚める。


「ここが地獄か。

確かに、なんか熱いなぁ~」


鏡坂が辺りを見回す。ここは白い砂浜の上で、透き通ったエメラルドグリーンの海があった。

ヤシの木や、色鮮やかな巻貝。海の中にはサンゴなどもいるようだ。


「おおっ!いいねえ!

地獄って思ったほど悪いところじゃねえんだな!」


人影が見えた。見覚えのある背格好。こころだ。

こころが鏡坂に向かって砂浜を走ってくる。


「こころじゃねえか!お前も無事だったか。ちょうどいい。ちょっと地獄で遊んで行こうぜ!」


こころはぶんぶんと顔を横に振る。


「鏡坂さん!ここ沖縄だよ。シーサーいるもん!」


「マジ?どこ?」


こころは近くに建ててある家の門を指さす。

それを見ると、確かに見覚えのあるシーサーの像が据え付けられていた。

鏡坂がかつて家族で沖縄旅行した時に見たものと同じものだ。


「マジでシーサーじゃん!ここ沖縄かよ!?帰るまでいくらかかるんだよこれ!?」

「この期に及んで、お金の心配かよおっさん!私を腹パンして稼いだお金があるだろ!」

「そうか。俺貯金580万円あったわ。余裕じゃん」


鏡坂は自分の貯金額を思い出し、心の平安を取り戻した。


「どうやら、あの穴にはいると別の場所に飛ばされるみたいだな。しかし沖縄とは……」


「よかった!」

「何がいいんだよ?」

「蒼月さんも生きてるって事でしょ!」

「おお!確かにそうだな!やったぜ」


鏡坂とこころはハイタッチして蒼月の生存を喜んだ。


「しかしあのクソ不良警官!地獄なんて脅かしやがってよ!趣味の悪いやつだぜ!!」

「でもよかったよ~みんな生きてて。

あ、でもゆのちゃんは……捕まっちゃったのかな」

「ま、そうだろうな。最後までは見てないが、そうとしか考えられん」

「こ、殺されちゃったのかな……?」

「あいつの発言ははったりだろ?地獄と言って沖縄なんだから、

破壊すると言ったら拉致監禁ぐらいですませてくれるさ」

「それ、全然よくないよ!」

「取り返しに行きたいけど、ダメだな。あいつの居場所がわからん。

一旦神社へ帰るべきだろう」

「そっか。じゃあ私達は……」

「ああ。そうだな。負けたんだ」



護衛の依頼は失敗で終わった。



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