私立探偵の由名時が調査依頼を受けた殺人事件、それはある素粒子物理学の研究室で起きたものだった。
被害者の准教授は何者かに胸をナイフで刺され殺害され、現場の痕跡や凶器に残された指紋から、容疑者は同じ研究室の客員教授に絞られた。だが、教授は犯行が起きた時刻、別の県の大学で講義を行うという完璧なアリバイを持っていた。
ただでさえ奇妙なこの事件だが、さらに依頼人から、二人が研究していたものの正体が「タイムマシン」と聞かされて……。
事件を構成する道具は一見SF仕立てだが、物語は私立探偵の一人称からなるハードボイルド・タッチで進められる。このミスマッチに思える二つの要素が見事に調和しており、独特の魅力を生み出している。
一見荒唐無稽にしか思えないタイムマシンという設定もしっかり事件の真相に絡んでいるからお見事。
本作の探偵役・由名時が登場する作品は他にもあるので、気に入ったそちらもどうぞ。
(SF×ミステリー 4選/文=柿崎 憲)