第5話お気に入りの場所

その場所にはひとつのお墓があった。

備えられたばかりの花もそこにあった。

ここから見下ろす街の夜景も素晴らしくて

見上げた空はその夜景と同じかそれ以上に美しかった。


「ここは…」


丘についたケーリーはそう言葉を漏らすと動きを止めた。

この場所に来た事でケーリーはいつの間にか怒りを鎮めていた。


「ここが君の一番好きだった場所だろ?」


僕はケーリーに話しかけていた。

そしてお墓の前の花を指し示しながら


「君が愛されていない訳がないじゃないか」


と、彼に声をかけた。


「ここに僕のお墓があったんだね」


そう言ったケーリーはもう元の姿に戻っていた。

彼はもう全てを思い出したようだった。


「僕はこの場所が一番好きだったんだ…」


「奇遇だね!僕もそうさ!」


そう言って僕とケーリーは笑いあった。

その時、黒猫とお化けに奇妙な友情が生まれた気がした。

星が美しく見える丘の上、銀色のお月様の光の下で。


もうすぐ夜が明ける…そんな時間まで二人は楽しく話を続けた。

ケーリーの生い立ちもジャックの過去も…。

二人はまるで昔からの友人のように語り合い、その話のネタは尽きる事がなかった。


朝になれば境界の門は閉じる…二人に別れの時が近付いていた。


「もう行かなくちゃ、ジャック、ありがとう」


「ああ、またな!」


ケーリーは霊界に帰っていく大量のお化けの列に戻っていった。

僕はそれをずっと見送っていた。


「きーっ!また失敗したじゃないの!来年こそアイツをギャフンと言わせてやるんだから!」


その様子を見ていた魔女は大変悔しがりながらまたどこかに去っていった。

ふぅ…。

飛び去っていく魔女たちを見ながら僕はやっと安心出来たのだった。


「ジャックー!」


リサがやって来た!

僕の苦労を労ってくれるのかな?


「早く家に帰らないとまたユウキが心配するわよっ!」


ユウキとは僕の飼い主の事だ。

やばい、無断外出を続けていたのがバレたらまた外出禁止になってしまう!

実はつい最近やっと外出禁止の罰が解けたところだったんだ。


「ありがとう!すぐ家に帰るよ!」


「まったく、いつも自分の事は後回しなんだから…」


家に急いで帰ってくジャックを見送りながらリサも自分の家に帰っていった。

あれほど賑やかだった夜もこうして静かに終わりを告げていく。

猫達の活躍のおかげで今年のハロウィンも無事に何事も無く過ぎて行くのだった。


やがて水平線の向こうから新しい太陽が顔を出し11月1日の朝が始まった。

ハロウィンの夜にこんな出来事があった事を人間達は誰一人として知らないまま。

でもきっと知らない方がいいんでしょうね。

猫達も普段は普通の猫を”演じて”いるんですから。



(おしまい)

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ジャックとお化け にゃべ♪ @nyabech2016

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