第4話


「お疲れ様、刀剣ブレーダー。ゆっくり休むといいわ」

「お疲れさん…。休むっつっても明日は登校だがな」


 ほんっとハード過ぎだろ。休みが休みじゃなくなっちまったじゃねぇか。

 寝る時間も削られたし…。


「ああ…貴女は高校に通ってるんだっけ。物好きね」

「ほっとけ…」


 ほとんどの魔法少女は高校には通わない。

 仕事があるから、通う必要性がない。

 それでも通う私はやはり、転移者ポーターの言う通り物好きなのだろう。


「それじゃあお休みなさい。…次は基地で会いましょうね」

「おやすみぃー…シャレにならんからやめろ」


 ふふっ、と微笑みながら転移者ポーターは消えた。

 ほんと、シャレになってねぇんだけどな…。

 そう心の中で独りごちながら夕食の支度をする。この一週間で討伐したヴァリアは数知れず。体感では百体近く倒した気がする。

 これだけ倒せば報酬も大量だろうが、如何せん使い道がない。家は住めれば問題ないし家具なんかも必要な物しかかってない。食事は自炊してるし高い物を買うことなんてないし、趣味なんか特にない。


 寄付でもするか? あとは、思い切って家を買うとか?

 ま、死ななければいくらでも考える時間はあるし、保留だ。


 夕飯はカップ麺だ。自炊しているとは言ったが、時間と体力に余裕がある場合だ。

 そんな簡単な夕飯を終え、風呂に入り、着替えて寝る。唯一、金がかかっているベッドだ。

 寝る時はやっぱり気持ち良く寝たいだろ?

 というわけで、おやすみ。



 ☆★☆


 朝起きれたのは奇跡なんじゃないかと思う。

 眠いことには変わりないが。


 そう思いながら教室に入る。自分の席に直行し、机に突っ伏して寝る。筈だったのだが…


「学校来てすぐ寝るのはどうかと思うよ? チーちゃん」

「葉那か…なんと言われようと私は寝る」

「ええ〜…」

「昼になったら起こしてくれ…」

「ショート前じゃないのね…」

「それだと…短いんだよ…」

「でも一限目、現社だよ?」

「………………………一限前に起こしてくれ」

「はーい」


 亜道かよ…忘れてた。


 ああ…寝よ。




「チーちゃーん、起きて〜。おーい」


 体が揺すられる。声が聞こえる。


「現社だよ〜。亜道先生来ちゃうよー」


 そうだった…あいつに何か言われるのは避けないと。そう思い、体を起こす。


「起きた〜?」

「…おーう」

「ほら、シャキッとしてっ!」

「…おーう」

「教科書出して準備してっ!」

「…おーう」

「…私は?」

「おバカ」

「即答っ⁉︎」


 当然だ。

 バカ以外にどんな表現があるって言うんだ。

 ……ああ、神様(笑)か。


「ほら、そろそろ席つけ」

「はーい」

「それとありがとな」

「……………」


 葉那が目を見開いて私を見てきた。何を驚いているんだ?


「チーちゃんからお礼言われたっ⁉︎」

「…いいから席つけ」


 なんなんだ全く。






 現社の授業中にそれは起こった。


「川斬、髪型を変える前に授業態度を変えたらどうだ?」

「………は?」


 亜道からいきなり声をかけられた。

 髪型? いつもと変わんない筈だぞ。何言ってんだこいつ。

 なんて思いながらも確認してみると、なんと後ろのしたの方で縛っていた筈が、側頭部に二つ、つまりツインテールになっていた。

 よく気がつかなかったな、自分。なんて思うがそれどころではない。


「ちゃんと授業受けろ。ぼーっとするなよ」

「はい」


 こんなことするやつ、一人しかいない。

 犯人を睨む。やつは顔を背け授業に集中する振りをする。


「ヒッ⁉︎」


 隣の席の子が、小さく悲鳴を上げるが気にする余裕はない。



 亜道に何か言われると面倒なので、前を向き板書する。




 後で覚えてろよォ………。



 隣からまたも、悲鳴が聞こえたが知ったことではない。





 全身から冷や汗が流れる。さながら滝のように。


 ひぃぃぃっ⁉︎ 怖い! 怖いよチーちゃんっ! そんな風に睨まれたら私かいか…っじゃなくて、死んじゃうよっ⁉︎


 授業中だからか、前を向いてくれたが寒気が止まらない。もう五月になり、あったかくなって来ているのに、寒い。


 恐らく、てか絶対、授業が終われば何かされる。

 しかし、しかぁし! チーちゃん窓際の席、対する私は廊下側の一番後ろ。この決定的な戦力差! チーちゃんには勝ち目はないっ! しかも私の方が身体能力は上。それは体育の授業で証明されているっ。

 私は生き延びるのだぁ!





 そんなこんなで終わりのチャイム。


 準備は万端。いつでもいけるぜっ。


「起立、気を付け、礼」


 礼っ、とゆーわけでさいならっ!


 教室の扉を開け、廊下に出る。

 そのまま走り去る。



 ガシィッッッッッッ!!!!!!



 ことはできなかった。


「あえ?」


 そんな間抜けな声が口に出る。

 頭を掴まれている。抜けようともがくが一向に外れない。それどころか強くなっている気が……


「なァ…葉那ァ…急いでどォしたんだ?」


 そう話しかけてくる。いつも話しかけないと喋ろうとしないチーちゃんが、話しかけてくるのだ。

 嬉しい筈なのに嬉しくない。

 声を聞くだけで人を恐怖で支配できるんじゃないかと、本気で思ってしまう。

 まさに恐怖の声フィアーボイス


「チチチチ、チーちゃんっ⁉︎ ええええええっとねそのねそ、そう! お手洗い! お手洗い行こうと…」

「ヘェ…じゃあ私モ一緒に行ってやルよ…」

「……え⁉︎」

「なンだ? 一緒はそんナに嫌か?」


 頭を掴む手がどんどん強くなってきている。痛い。ものすごく痛い。そのまま、顔の向きを強制的に返させられる。


 そこにいるのはもちろんチーちゃん……


「ヒィィィッッッッ!!!!!!」


 ではなかった。

 いや、チーちゃんではあったが、いつものチーちゃんではなかった。

 いつもの眠そうな顔が、転じて般若のよう。てか般若。

 特に眠たそうだった半開きの眼は、今では睨むだけで人を、私を射殺せそうなほど鋭い。


「そそそそそそ、そその………………髪型変えたの私ですっごめんなさいすいませんでした許してくださいっっ!!!!!!」

「そうか……………………葉那」

「ち、チーちゃん?」


 チーちゃんの表情が和らぐ。

 おおおおっ、許してくれ———


「いっぺん死んどけ」


 くれませんでした。


「いたぁぁぁぁあああっっっっっ!!!!!!」


 とてもイイ笑顔のチーちゃんに締め上げられました。



 ☆★☆


 人で遊ぶからそうなるんだ。

 やったの私だが。

 そんなことは置いといて、目の前で死んでる神(笑)をどうにかしよう。


「起きろ」

「いてっ」


 葉那を叩き起こす。廊下で寝転がっていると汚れるぞ。

 もう汚れてるけども。


「きたなっ」

「チーちゃんのせいだけどね⁉︎」

「もとはお前のせいだろ」

「…ごめんちゃい。……ってあれ?」


 私はもう席についている。

 二時限目が始まるから。


 チャイムがなる。


「チーちゃぁぁぁぁぁあああああん⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


 葉那の叫び声が響く。


 知ったことではない。

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魔法少女/THE:Dreamer ~夢現の狭間~ 大石小石 @blue-rain

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