第5話 論戦檄争-1-『18歳の選挙』
のほほんとした雰囲気の担任の先生は、
教壇に立ち、クラスの生徒たちに向けて話し始めた。
「昨日も、この総合学習の時間に少しお話しをしましたが――」
「今年度から、日本全国で、年齢が18歳の人にも選挙権が与えられます。
つまり18歳になれば、高校三年生の人も、選挙で投票ができるようになります」
「そして今年の七月――ちょうど夏休みが始まるか始まらないかの頃でしょうね、
日本全国で参議院選挙が始まります。
みなさんがこれまでの授業で習ったとおり、
参議院選挙は国会における国民の代表者を選ぶ、とても大切な選挙です」
「この春、高校二年生になったみなさんも、すこし早い話ですが、来年は三年生。
選挙権を得る年齢です」
「晴れて、一人前として、活発な議論をして――
みなさんが自分で考え、自分で良い未来を選び取っていける、
そんな素敵な大人になってもらいたいな、と先生は考えています」
――生徒たちは真剣に聞いている。
「そしてですね、夏の参議院選挙が終わった後、
順番に、県議会や市議会、町村議会、
各都道府県の知事を選ぶ選挙でも、――18歳選挙権の導入となる予定です。
ですからー、これからは、ほぼすべての選挙において、
18歳からの選挙が実施されていくんですね」
「ですから、みなさんは今回の参院選には間に合わなくとも、
来年、高校三年生になれば、おそらくなにかしら投票所へ行くことになると思います」
「政治に対するみなさんの意見は、どうですか?
一ヶ月後には、夏の選挙の事前学習を兼ねて、クラスで模擬投票もしてみたいと思っています」
ひとしきり言い終わると、先生は紙の束を取り出した。
「今回行われる参議院選挙の内容をプリントにまとめてみました」
印刷されたプリントが全員に配られる。
――生徒達は熱心に見ている。
書かれているのは――
参議院選挙の概要
日時
改選議員数
定員数削減の地域表
プリントの最後には、『よい投票をしましょう』
「昨日のような『元気』のある議論を先生は楽しみにしています」
――ピクッ。
それまで黙って聞いていた、
サヨクくんとネトウヨちゃんが、
この言葉に鋭く反応した。
――担任の教師から『やってもいい』との許可が出たぞ。
これでネトウヨを容赦なく完膚なきまでに論破して……屠れる。
……ククッ……楽しみだ。
――先生から『やってしまえ』とのお墨付きを得た。
これで向後を気にせず、あたしも全力でやれるっ。
……くひひっ、サヨクめ、終わったなっ。
のほほんとした性格の先生は、
このときの自分の発した言葉の深刻さに、
悲しいかな、気付いてさえもいなかった。
――スッ
――サッ
ふたつの、挙手。
クラスの皆が注目する。
もちろん、例のふたり――
サヨクくんとネトウヨちゃんだ。
サヨクくんは――ネトウヨちゃんの方を向き、
ぎこちない笑顔を浮かべながら口火を切った。
「昨日の、議論の続きを、しませんか……」
ネトウヨちゃんは――サヨクくんに対し、
にこやかに微笑みつつ、答える。
「はい、もちろん、いいですよ……」
お互いに感情をかみ殺し、柔和な表情で平静を装いつつも、
心の中では相手への警戒心がとぐろを巻いていく。
「ではみなさん、机を議論しやすいように並べ換えましょう」
先生の言葉に従い、クラス中の机が動き出す。
ガタガタッ ガタッ
生徒達は申し合わせた風も無いのだが、
自然と机を円形状に並べていく。
中央には、サヨクくんとネトウヨちゃんの席。
それを遠巻きに囲みながら他の生徒の席がぐるりと並ぶ。
さながら古代ローマの闘技場――コロッセウムの様相だ。
場が出来上がり、教室が静まると――
ふたりは向き合い、互いに、立ち上がる。
サヨクくんは大きく息を吸い込む――
スゥゥ――
「では――始めます」
ネトウヨちゃんは小さく息を吐き出す――
コフゥー――
「いつでも――どうぞ」
なにかしらの精神を圧するような、静粛と厳粛。
これから始まる――、苛烈な戦いの予兆であろうか。
その雰囲気に押されて――
――教室が、――空気が、――生徒達が、――震える。
そして――
教室中の視線がふたりに注がれる中――
クワッッ
両者の目が、大きく見開かれるッ
――――始まるッ
サヨクくんは叫んだッッ
「安倍総理は歴史修正主義者だッ!!」
ネトウヨちゃんは吼えたっっ
「安倍首相は現代日本の中興の祖になるッ!!」
――先生の目が、せまりくる危険を察知して、泳いだ。
サヨクくんとネトウヨちゃん U ・ω・)出雲犬族 @IzumoInuzoku
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