なぞなぞ
江ノ島アビス
問題です
パンはパンでも食べられないパンはな~んだ?
■ 第一問
パンはパンでも食べられないパンはな~んだ?
12才の少年ジャンは病気の母の為、朝から夜遅くまで街の時計工場で働いている。
1日14時間働いて貰える賃金は3セント。
ここロンドンでは2人分のパンとミルクがやっと買えるだけの金額だ。
その日もジャンは、貰った3セントで自分と母親の分のカチカチのパンとミルクを買って帰路に着いた。
途中、路地裏でやせ細った浮浪児の姉妹を見かけた。妹の方は息をしているかも分からないほど弱っている。
ジャンはほんの一瞬目を伏せた後、すぐに薄汚れた袋から自分の分のパンを取り出し、姉妹の前にそっと置いた。
姉は掠れた声でお礼を言った。
ジャンは帰宅すると母親にパンとミルクを渡しこう言った。
「今日はとってもお腹が減ったから、僕は歩きながら食べてきてしまった。だから母さんだけ食べていいからね」
母親はジャンの行儀の悪さを嗜め、そして優しく微笑んだ。
だから、ジャンはその日、パンを食べられなかった。
でも、その顔はとても満足そうだった。
翌朝。
昨日の路地裏で、冷たくなった姉妹を囲む人だかりが出来ていたが、朝早くから時計工場で働くジャンはその事を知らなかった。
□ 答え 姉妹にあげたパン
■ 第二問
くびはくびでも口からでるくびってな~んだ?
ロンドンの時計工場で働くジャンは14歳になっていた。
仕事はきつく苦しいものだったが、ジャンは毎日懸命に働いた。
ある日の仕事終わり、ジャンは職長に呼び出された。
最近は仕事でミスもしなくなった。言われた事はきちんとやっている。
理由が分からないジャンに、職長はこう告げた。
最近、工員の財布から金が抜き取られているんだ。
ジャンは何のことだか分からず首を傾げた。
職長は、そんなジャンを見て声を荒らげた。
この工場で一番貧乏人のお前が盗ったのだろう、と。
ジャンは必死に否定したが、職長はジャンの言葉に聞く耳を持たず、遂にはこう告げた。
「お前はくびだ!」
ジャンは工場を叩き出され、とぼとぼとロンドンの街を行く宛もなく歩いた。
今日のパンとミルク、どうしようかな……などと考えながら歩いていると、少し前に同僚たちがしていた噂を思い出した。
なんでも、職長は最近とても羽振りがいいらしい。
仕事中もコソコソとどこかへ行ってしまうのは、何か秘密の仕事でもしているんじゃないか?そんな噂だった。
□ 答え 解雇通知
■ 第三問
おりはおりでも冷たいおりってな~んだ?
工場をクビになってから2年の月日が流れ、ジャンはロンドンの街でスリを働くようになっていた。
濁った目で街をブラつきカモを探す。専らジャンのカモになったのは、葡萄酒を飲んで酔った金持ちや役人だ。
母親には相変わらず時計工場で働いていると嘘をついていた。
ある日、ジャンは街で職長を見かけた。ジャンの濁った目に、暗い、憎悪の炎が宿った。
今日のカモはあいつにしよう。
いつもは警戒に警戒を重ねてから仕事に及ぶジャンだったが、この時ばかりは脚が勝手に職長の方へと向かって走り出していた。
それを路地裏から見ていた一人の男がいた。
最近、ロンドンの街で頻発するスリ事件を捜査中の刑事、ゴードンだった。
あれよと言う間にゴードンに捕らえられたジャン。
その夜、ロンドン市警の留置場に入れられたジャンは鉄柵を触り、つまらなそうに呟いた。
「冷たい檻だな……」
□ 答え スリの罪で捕まった先の牢獄
■ 第四問
とってもとっても減らないものってな~んだ?
ジャンの投獄2年にも及んだ。
スリ犯は通常長くても半年程度だが、弁護人を雇う金が無かった事、役人からもスリを働いていた事が原因だった。
刑期が確定したジャンは背中に「強盗」の焼印を押され、暗く、ジメジメした牢屋へと入れられた。
そんな中、ジャンは一人家に残してきた母親の事が気掛かりだった。
寝たきりの母親は、今頃どうやって暮らして居るのだろう。2年間、ジャンはそればかりを考えていた。
時折、ジャンを捕まえたゴードンが面会に来たが、ジャンは頑なに心を閉ざしていた。
そして、2年の月日が流れる。
釈放されたジャンは自宅へと急いだ。大きな声でただいまと叫びドアを開ける。
ジャンが見たものは、ベッドの上で冷たくなった母親の姿だった。
ジャンはその場に崩れ落ち、ただ粗末な天井を仰いだ。その目からは、一切の生気が失われていた。
ベッド横のサイドテーブルには母親の日記が置かれていた。ジャンがスリをしている事、ジャンへの心配などが綴られていた。ジャンが捕まった事も知っていたらしく、面会に行けない悔しさが、母親の愛に満ちた視点で書かれていた。
日記の最後の日付は三日前のものだった。
□ 答え ジャンがお金を盗っても、母の愛は減らない
■ 第五問
にげてもにげても追いかけてくるものって な~んだ?
母の死に絶望したジャンを救ったのは、意外なことにジャンを逮捕したゴードンだった。
定年間近だったゴードンは、未成年犯罪者を保護下に置くと言う名目でジャンを引き取った。犯罪者の烙印を押されたジャンに拒否権など無かった。
ゴードンはジャンに何をしろとも言わなかった。
初めは人形のように惚け、食事も満足に取らなかったジャンだが、ゴードンと触れ合うことで徐々にジャンの心は温かさを取り戻していった。
二人の生活が始まって半年が過ぎた頃、ゴードンはロンドン郊外にある牧場で家畜の世話をするという仕事をジャンの為に見つけてきた。
自分を救ってくれたゴードンを恩返しがしたいと、ジャンは快くその仕事を受ける事にした。
そして、更に半年が過ぎた。
仕事中、汗をかいたジャンは同僚の前で不用意に服を脱いでしまった。
背中に犯罪者の証があるのを、ジャンは忘れていたのだ。
その日を境に、ジャンは職場で孤立する事になる。
□ 答え 過去
■ 第六問
おおきな穴があいているのに沈まないものって な~んだ?
牧場の同僚はみな善良であった。ただ、同時に小市民でもあった。
同僚はあからさまにジャンを避けたりはしなかったが、ジャンへの態度は露骨に変わった。
それまで皆と食べていた昼食を一人で取るようになった。
みんなで協力しなければならない仕事に呼ばれなくなった。
孤立していくジャンを見兼ねた牧場主の娘メアリーは理由を訪ねたが、同僚たちはジャンの報復を恐れてか、一様に理由を話さなかった。
次第に表情が沈んでいくジャンを見たゴードンは、ある日、ジャンに酒を勧めながら、少し昔の話をしよう、と言った。
自分もジャンと同じような境遇であり、刑事に引き取られた事。
その恩を返す為に刑事になった事。
妻がいたが若くして流行り病に倒れた事。そして、血は繋がっていないがジャンを本当の息子だと思っている事。珍しく饒舌なゴードンの話をジャンは黙って聞いていた。
ジャンの心には、ある決意が生まれていた。
翌日からジャンは、人一倍働き、人一倍笑うようにした。同僚たちはそんなジャン見て、徐々にではあるがジャンへの警戒を解いていった。
また、そんなジャンを見ている一人の女性がいた。メアリーである。
□ 答え ジャンの心
■ 第七問
くっつくと見えなくてはなれると見えるようになるのって な~んだ?
3年の歳月が流れた。
犯罪者の烙印を見られ一時は孤立したジャンだったが、ゴードンの優しさを胸に真摯に、そして懸命に働いた。同僚はそんなジャンの姿に胸を打たれ、ジャンは同僚の中に戻る事が出来た。
そして、そんなジャンに胸を打たれたのは同僚だけではなかった。
牧場主の娘メアリーもまた、よく働きよく笑うジャンに、何か心が動かされるのを感じていた。
そんなある日。
牧場主の友人であり港で漁業団を経営するパーシーが訪れた時のこと。
よく働き、牧場夫としてすっかり逞しくなったジャンを、破格の待遇で漁業団に欲しいと言ってきた。
一度は申し出を断ったジャンだったが、牧場主は、パーシーはとても出来た人物だから心配はいらない。ジャンの好きにするといい、と言った。
お前さんがこの牧場から居なくなるのは大きな痛手だがな、とも言ってくれた事が、ジャンには何よりも嬉しかった。
これでゴードンに恩返しができると思ったジャンは、漁業団へと移ることにした。
ジャンが牧場から去って一ヶ月。
メアリーは、ジャンの居なくなった生活で気が付いたことがあった。
ジャンへの深い愛情である。
□ 答え メアリーのジャンへの愛情
■ 第八問
ドアの後ろにかくれているいきものってな~んだ?
漁業団での生活は、厳しくも楽しいものだった。仲間たちは皆快活で、パーシーは公平な人であった。
ジャンは漁業団で初めての給金をもらうとすぐ、ゴードンへ仕送りをした。
現金と共に、自分で採った新鮮な魚を送った。ゴードンは大変喜んでいる旨の手紙を寄越した。次からは魚だけで良い、とも書かれていた。
そして、ジャンは一日だけ休みを貰い母親の墓を参った。
墓に温かいパンとミルク供えた時、ジャンの目から一粒の涙が溢れた。
母を失ってから初めての見せた涙だった。
ある嵐の晩。
いつものように漁から戻り一人食事をとっていると、ジャンの耳にドアをノックする音が飛び込んできた。
こんな時間に誰だろうとドアを開けると、そこには、ずぶ濡れのメアリーが立っていた。
□ 答え メアリー
■ 第九問
大きくなると小さくなるものってな~んだ?
メアリーから想いを告げられたジャンは大変に戸惑った。そして、自分は犯罪者であることや、これまでの半生を包み隠さずメアリーに告げ、交際する資格がないと断った。
だが、メアリーはジャンが去った後、父である牧場主から全てを聞き、それでも自分の思いが変わらなかった事をジャンへ真っ直ぐに話した。
ジャンはその一途な想いに心を打たれ、二人は交際を始めた。牧場主もゴードンも、大いに喜んでくれた。
それから2年。
二人は順調に愛を育み、結婚する準備を進めていた。
そして、結婚を前に牧場主とゴードンへ挨拶に行った。
ゴードンはいつもの椅子に腰掛け、二人の話を幸せそうに聞いた。
初めて会ったときよりも、その顔には深く皺が刻まれ、その背中は小さかった。
自分を逮捕した時にはあれほど逞しかったゴードンも、今では一人の老人である。
そんなゴードンとは対照的に、ジャンは牧場と漁で鍛えられ精悍な体つきになっていた。
ジャンは、それが何故だか無性に寂しかった。
□ 答え ジャンが大きくなると、ゴードンが小さくなる
■ 第十問
着ると幸せになる服ってな~んだ?
昨日まで降り続いていた雨が上がり、日曜日の港町は晴天に恵まれていた。
誰しもが暫くぶりの太陽に気持ちが晴れやかになる中、町の教会には大勢の人が集まっていた。
教会では老いも若きも皆楽しそうに笑い、その中心には精悍な青年がいた。
やがてそこへ、一人の女性がゆっくりと入ってくる。
一瞬の静寂の後、教会は大きな歓声で満たされた。
女性は精悍な青年の元へと歩み寄ると、恥ずかしそうに、そして、幸せそうに微笑んだ。
教会ではジャンとメアリーの結婚式が行われている。
ゴードンは一番後ろの椅子に腰掛け、今では曲がってしまった背中をこの時ばかりは伸ばし、二人の幸せな姿を満足そうに見ていた。
素朴ながら丁寧に仕立てられたウェディングドレスに包まれたメアリー。
ジャンはメアリーを幸せそうに見つめると、この場の全てに感謝した。
歓声は鳴り止む事を知らず、尚も大きく二人を祝福していた。
□ 答え ウェディングドレス
なぞなぞ 江ノ島アビス @abyss
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