第23話 おまえはどうする
あっという間に見えなくなったリオノスを見送って、俺はため息をついた。
「さて……」
これからどうするか。
追いかける、とは言ったものの、キヌカから与えられた魔力はそう多くはない。足に擦り寄ってきたウェルノスの頭を撫でながら思案する。リオノス同様、ウェルノスも休みなしで走り続けることができるが、魔力を消費しないわけではない。第一空と地上とではやはり移動スピードに差がある。
そもそも、追いついたからといって、今の魔力では猫の手くらいにしか役に立たない。
思案しているうちに、俺は道を走ってくる馬に気づいた。二頭の馬が、打ち捨てられた神殿に向かってくる。
そのうちの一頭は背に人を乗せている。
次第に近づいてくる男の姿を目を細めて見ていると、男――いや、少年は俺に気づいて声を上げた。
「と、トキタカさん? どうしてここに?」
――それは死んでなかったのか、という意味か?
内心毒吐くが、言わないでおく。まだあどけなさの残る顔立ちながら、いつも卒なく立ち回っていた少年は、今は心なしか憔悴しているように見えた。ウェトシーに来て以来の再会だから、ゆうに一週間ぶりになる。
アウスンは驚きの表情で俺を見ると、あたりを見回した。
「イクタ王子は? アトレン王子はどこですか?」
「とっくに行っちまったよ」
「そんな! 迎えに来たのに。王子のための馬も連れて……」
どうやら、二頭繋いで連れていたのは、イクタ王子のためだったらしい。本人はもう馬なんか必要としている様子ではなかったが。
「おまえ、何も聞かされてないのかよ」
「……」
俺の問いにアウスンは沈黙した。アトレン王子とイクタ王子の計画をどれだけ知っていたのかはわからないが、彼は彼で、元の姿に戻った王子とリオニアに帰るという希望を抱いていたらしい。
それはそれで健気ではある。
「おまえの主人たちはエスラディアに行ったぜ。お前はどうする? このままリオニアに帰るのか」
「トキタカさんはどうするんですか?」
「俺は行く」
「……僕も、行きます。王子のところへ、行きます」
「行ってどうするんだよ。あいつら戦争しようとしてるんだぜ。お前も戦うのか」
「……」
意地悪な質問をしてしまったかもしれない。ほとんど泣きそうな顔で、アウスンが俯く。もっとも、今言った言葉はすべて自分にも当てはまるのだが。
俺が行ったところで、どうなる?
キヌカの役に立つのか?
「僕は……」
アウスンの声に視線を戻すと、少年が顔を上げるところだった。思わずハッとするほどまっすぐな表情で、アウスンは言った。
「見届けます。それが従者の勤めですから」
「そうかよ」
俺は思わず笑みを漏らした。アウスンのことを笑ったわけではない。自分の迷いが急に馬鹿らしく感じたのだ。
アウスンはイクタ王子がどうなろうとそれを受け入れるだけの覚悟はしているのだろう。そういう強さもある。
「俺、よく考えたらべつにあいつの役に立ちたくなんかなかったな」
「……え?」
ひとりごちて、きょとんとしているアウスンに向き直る。
「アウスン、俺に乗らないか」
「乗るって……?」
「おまえはまあ、主に忠実な男なんだろと思うよ」
俺はウェルノスの背に跨って言った。
「ただ、主命に逆らわなくても、やつらを止める方法はある」
死神少女と心ない王子 amn @amn
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