第9幕 //第6話

 紫村玲央様



 手紙を書くなんて初めてで、少し緊張しています。きっと長くなると思うんだけど、最後まで読んでくれると嬉しいな。



 まずは、何も言わずに居なくなってしまうこと、学校を辞めてしまうこと、本当にごめんなさい。

 きちんとお別れの挨拶をしたかったんだけど、いざ別れを切り出してしまったらやっぱり辛くなってしまいそうで。みんなが優しくて温かくて、そんなみんなの前で泣きたくなくて、誰にも言わずに行こうと決めました。

 栄先生には、明日みんなに発表してもらうつもりでした。たぶん、みんな驚いちゃうよね。


 でも、玲央くんには少しでも早く自分から伝えたくて、この手紙を書きました。直接は言えないだろうから、せめて一日だけでも早くって思って。

 結局はわたしの自己満足です。ごめんなさい。



 この手紙に同封する写真を選んでいたら、たくさんのことを思い出しました。


 わたしね、玲央くんと初めて出会った日のこと、まだハッキリと覚えてるよ。

 玲央くん、泥だらけでびしょ濡れで、いつも教室で見るより少しだけ怖くって。実を言うと、話しかけるのを躊躇った。でも、傘を渡した時、わたしと合った目がなんていうかとっても綺麗で。あ、この人と話してみたいなって思いました。

 それなのに玲央くんったら、あの後全然目も合わせてくれないし。わたしのこと嫌いなのかなってちょっぴり不安になったりしたなあ。


 でも、きっと玲央くんにも色々あって、わたしのことを考えてくれたんだよね。傷つけないように、噂に巻き込まれないように。後から、玲央くんの不器用な優しさが分かったよ。

 忘れ物の傘を届けた時、玲央くん、とても緊張した顔してた。それなのに「希」って呼んでくれて、「これからよろしく」って、差し出したわたしの手を握り返してくれて、嬉しかった。あの時は、本当にありがとう。



 あっそうだ、クラスで初めてやった席替えはすごかったよね!

 まさかの隣の席になれたし、中嶋くんや瑠花ちゃん、あと村上くんとかも席が近くになって、とっても楽しかったのを覚えてる。

 あの席替えのおかげで玲央くんともっと仲良くなれたし、中嶋くんたちと友達になってる玲央くんを見て、わたし、本当に嬉しかったんだ。

 

 だから、夏祭りもあのメンバーで行けて良かったの!


 今だから言えるんだけど、玲央くんの浴衣、とっても似合ってました。みんなで行ったから、たくさん写真も撮れたしね。わたしって結構ずるいなぁって思いながら、たくさん写真撮っちゃった(笑)誤魔化すためにみんなの写真もいっぱい撮ったから、あんな量になったんだよね。びっくりしたでしょ。


 それから、初めてわたしの夢を話したのも夏祭りだったよね。あまり人に話したことはなかったんだけど、玲央くんには話してみたいなって思ったんだ。多分。

 そう考えたら、何だか不思議だね。



 学園祭でも色々あったよね。

 わたし、もしかしたら最後の学園祭になるかもってどこかで思ってて。最後ならやれることやってみようと思って、実行委員長に立候補した。そしたら瑠花ちゃんも手を挙げてくれて、玲央くんたちの出したお化け屋敷の案に決まって。

 どんどん楽しくなってきて、こんなに楽しくていいのかなって。


 そして、玲央くんのすごさをみんなに知ってもらうのはこのタイミングだ!って思って、無理矢理看板作りの役を押し付けちゃった。もっと文句とか、俺はやりたくないとか言われるかなぁって覚悟はしていたんだけど、玲央くんは意外とすんなり受け入れてくれたよね。実際にできた看板もビラもすごくって、みんなが玲央くんの絵に驚いてた。

 玲央くんがすごい人なんだよってどうしても認めて欲しくて、玲央くん自身にも認めて欲しくて、強引にやっちゃったけど……わたしの気持ちが伝わった気がした。あの怖い人たちがやってきた事件もあったけど、中嶋くんたちの気持ちもみんなの気持ちも伝わったから、結果的にはとても嬉しい学園祭でした。ありがとう。



 わたしね。前にも話したことがあるけど、ずっとずっと、玲央くんにはまた絵を描いて欲しかったの。


 偶然公園で玲央くんがサッカーしてる姿を見つけた時、玲央くんとっても楽しそうで、わたしの知らない一面にドキドキして。あぁきっと、サッカーが大好きなんだろうなって思って。声をかけるのも躊躇うくらい、キラキラしてたから。

 でも、学校での玲央くんは、どこか自分の世界を狭めている気がした。わたしが見た、あの絵を描いた玲央くんとは全然違うって思った。


 だから学園祭で看板を描いてくれた時。一緒に美術館に行った時。好きな事を目にして嬉しそうな玲央くんを見て、とっても嬉しかった。そして、好きな事を思いっきり楽しんでいる玲央くんは、すごくすごく良いなって思ったの。

 玲央くんには、好きなことを、夢を追いかけて欲しかった。もし、玲央くんの夢に“絵”が少しでも引っかかっているのなら、進んでみて欲しかった。


 これはわたしの勝手なエゴだよ。

 わたしの理想を押し付けて、どうしても夢を諦められないわたしの気持ちを、玲央くんに無理矢理託そうとしてしまいました。

 玲央くんはわたしのこと、真っ直ぐで優しいやつって言ってくれたけど、本当のわたしはとっても押し付けがましいおせっかいなんだよ(笑)


 でも、一つだけ言わせてください。


 玲央くんは、わたしの見てきた玲央くんは、少し不器用だけどたくさん良いところがあって、みんなのことをちゃんと見ている、本当に優しい人でした。

 わたしにとって、大切な人でした。

 わたしの背中を押してくれた人でした。


 たくさんたくさん、ありがとう。


 どんなにありがとうって言っても、書ききれないほどだけれど。きちんと言葉で伝えたかったけれど。手紙で許してください。



 最後に。

 玲央くんがどんな未来を進んだとしても、その未来が夢で溢れたものでありますように。いつかまた、わたしたちの生きていく道が。ドラマが、重なるといいななんて、思っているわたしがいます。



 精一杯のありがとうと応援を込めて––––––吉田希

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ドラマ 織音りお @orine_rio

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