文明崩壊後SFが好きです。神話や伝承も大好物です。そんな私にうってつけの物語でした。
失われかけたフォークロアが、再び花開く瞬間に立ち会えたような気持ちです。現実世界の伝統も、きっとこうして危なっかしくも力強く今まで継承されたのだろうと、しみじみ感じ入りました。
語り口が小難しいわけでもライトすぎるわけでもなく、世界観がよく現れています。ジウとニューランのやりとりがいいアクセントになって、するりと読むことができました。
人々の優しさや内に秘めた想いが、物語が進むにつれて一つになっていく様は圧巻です。
ラストも世界の広がりと、人類への希望に満ち溢れていました。素晴らしい作品をありがとうございます!
太陽フレアによる強力な電磁バーストと隕石群によって、文明が一度崩壊した世界。ジウと伝承蒐集家《フォルクロールレイカー》ニューランは、各地に伝わる古唄(ウタ)を集めながら旅をしている。かつて遊牧をしていた村で、二人は少年ナジと出会う。村人たちが失っていたのは、ナジの父親と古唄だけではなかったーー
羊の牧畜を行う村の暮らし、食べ物、気候、楽器や織物など……丁寧に創られた世界が、映像のように目に浮かびます。そこで生きるひとびとの葛藤も、胸に迫ります。古唄を再生しようとする彼らの努力は、孤立してしまった一人の男の魂も救うのでしょうか。そっと見守りたいと思います。
今ではその呼び名は廃れてしまいましたが、古いオーディオ機器には音楽を奏でるためのスイッチに「再生」という機能・名称を付けていました。何故はじめて聴くものでも「再」生なのか、昔はずいぶん不思議に思ったものです。
でも今ならわかるような気がします。音楽というものは、奏でられてこそ生きるもの。レコードやカセットテープに記録されている状態は、有り体に言えば死んだ状態なのであって、スイッチが入り信号が流れ出し、スピーカーを震わせ世界へ向けて奏でられるときにこそ、音楽は再生されるのです。
『天星石≪アスタリウム≫の響≪うたごえ≫』は。文明が崩壊した後の世界を舞台にしたSF小説です。その世界にはレコードもカセットテープも、ましてやMP3プレーヤーも既に存在しません。それでも、そこに人が生きている限りは音楽もまた生きている。ジウとニューラン、この物語の二人の主人公は、生きている人々の中で、生きている音楽を、記録していきます。
録音機器がなくとも音楽を記録することは出来ます。そう、楽譜ですね。でも採譜をすることで音楽を写し取っていく行為は、生きた音楽をそのまま保存することではないのかも知れません。音の振動を記号と文字に置き換えていく過程には、個人の認識や判断、是非といったものが必ず介在します。言い換えればつまり、
楽譜には、人の想いが宿っているのです。
楽譜を基に楽器を奏で、世に音楽が満ち溢れるとき、そこで再生されるものはなんだろう?
音楽を再生するようでいて、実は人が再生される。傷ついた世界と人とを癒す『天星石≪アスタリウム≫の響≪うたごえ≫』は、そんなお話――
強力な太陽フレアのため文明が滅亡してしまった世界。安全なシェルターである「街」での暮らしを捨て、太古の昔から伝わる古唄(ウタ)を探す放浪の旅に出た青年たちは、草原で羊を飼い、素朴な生活を営む村にたどり着きます。
そこで古唄(ウタ)のひとつの手がかりを掴むのですが……何と、その村の歌い手のおじいさんが……!
滅びた世界なのに、絶望的な空気はなく、そこでたくましく生きている人々の力強さに、励まされます。
タイトルにもある天星石も、魅力的なロスト・テクノロジーとして物語のキーとなっています。
オーロラの輝く夜の情景も美しくて、映画を観るような印象のある小説です。