断章:褪せる──直人の場合
空のフラスコ。アルコールなど入っていないアルコールランプ。試験管の中には何かが入っていたような汚れ跡。三脚や割れた丸底フラスコが無造作に転がっている。
そしてよく分からない荷物の山。蜘蛛の巣すら張りそうな薄暗い部屋。どう見ても単なる物置と化した、かつての第二理科室。
「何か七不思議があったような気もするけど忘れた」
直人はぼそりと呟いた。
「竜也が羨ましいよ」
その科白には恨みがましい色などない。ただ友人を称えるような様子で、直人は微笑んだ。
荒廃した室内をゆっくりと歩きまわる。
「どこからおかしくなったんだろうね」
能面のような表情になった彼からは何も読み取れない。
「でも、誰も悪くはないんだよ」
彼は上を見上げた。
「そう、誰も」
いつの間にか、そこには何も存在しなかった。
直人は暗闇の中に一人ぽつんと立っていた。
帝都に柘榴の華は咲く 千里亭希遊 @syl8pb313
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。帝都に柘榴の華は咲くの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます