第6話
後日談を書くのは、やはり恥ずかしい。でも彼女や母、姉たちの心配は、そう長びかずに済んだ。
目を覚ましてからほどなく、食欲も出てきた私は、食わず嫌いで通してきた野菜や魚などを、ものともせずに口に押し込み、病院食を乗り切った。
頭の状態も、しばらくは要安静だったが、病室でのくらしも、退屈では無かった。
何より病室が移って、似たような境遇の話し相手が出来たし、彼女も、私がいいと言っても毎日来てくれた。そのせいか、まるで彼女は私のいわゆる「いいひと」だと思われてしまったようで、彼女は毎回否定しては、顔を赤くしていた。
私が手術後、眠っている間に見た夢の記憶は、しだいに薄らいで行ったが、彼女の印象はどこまでも鮮明だった。それは実際の彼女と話をしていくことで、得るものがあったからともいえる。
幸運なことに、会社には戻ることが出来た。ただし、給料は半年ほど減額されたが、おかげで時短出勤、飲み会も断る理由が出来たし、家に早く帰れるようになった。
彼女とは、私が退院してからも、ちょくちょく会うことが多くなり、いまに至っている。
あとは、私の決断次第だとは思うが、どうだろう。あらためて、あの夜の出来事が、私に幸せになるきっかけを運んでくれたのだと思う。
うっかり乗り合わせた電車には、思いがけないプレゼントがあったりする。それは命がけの旅行でもあり、自分の人生を生き直すための試練でもある。
私はどうにか救われて、今を生きている。見知らぬ人の命に、守られて生きているのだと思う、今日この頃である。
東京フルーツ ミーシャ @rus
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