第4話 ギルドマスター


 俺たちは何とか逃げ切っては来たものの、どうも強い視線を感じる。振り向くと目を合わせようともせずに、背けてしまいイイ感じはしない。

 この世界の奴隷の扱いがイマイチだが、手を繋ぐくらい問題ないのでは?

 それとも他に問題事があるのだろうか。

 ウルスは未だに拗ねている。

 尋ねる人がいない。そこでピンッとアイディアが閃いた。


 ギルドだよ。ギルド。

 ファンタジーモノでは欠かせない王道中の王道といえば、やっぱりギルドだ。冒険者の拠り所・依頼状の申請と報告・飛び交う情報を収集するなどなど。


 ふっふっふ。これは行くっきゃっねぇー!

 ってことで、俺たちはギルドにやってきた。


「頼もーーーー!!」


 少年の俺だからこそ、言える恥ずかしい言動に振り向くのは厳ついオッサン冒険者ばかりである。

 女性の冒険者もいるにはいるが、カクテルや洋酒を嗜むバーのカウンター席で一杯引っ掻ける者や煙草を吸う色っぽいお姉さんもいる。

 ウルスは俺の影に引っ込んで怯えている。そんな姿も可愛いもんだが、ここに来たには目的がある。ちんけなモノではない。取り敢えずは、ギルドカードの申請からだ。


 親っさんが言うには、ギルドカードなしじゃ生活出来んらしいからな。作っておいて損はないだろう。

 ーーにしてもですね。何でしょう、この澱んだ空気とネジ曲がった熱い視線は?


 ギルド内でたむろしていたのは、殆どがムサイ男性冒険者ばかりで女性冒険者との比例は、8:2ってとこだ。

 女性冒険者は、背中に弓を背負って、腰には短剣を装備しているのが殆んどだ。と言うことは、DEXメインのAGI寄りのシーフだろう。

 それに対して男性冒険者の多くは、幅が広く身の丈サイズの大剣を背負った巨駆の者もいれば、拳にナックルを着けた華奢な者もいる。VITをベースにしたSTR寄りか、AGIをベースにしたSTR寄りってところだな。


 何だって? STRやVITが分からないだと!? OK、分かった。初心者でも解りやすく説明しておこう。

 STRってのは、ストレングスの略称で力。

 VITは、バイタリティの略称で生命力。

 DEXは、デクステリティの略称で器用さ。

 AGIは、アジリティの略称で敏捷性。

 INTは、インテリジェンスの略称で知力。

 LUKは、ラックの略称で幸運。をそれぞれ意味するんだ。こんなもんは、RPGじゃあ基本中の基本。下手すりゃあ小学生だって知ってる一般常識よ。


 ぼへー。としていては反って邪魔になるので冒険者では、なさそうな。似たり依ったりな格好・制服を着ている女性に尋ねることにした。


「おはようございます!

 あの、ギルドカードを作りたいんですけど…」


 俺が挨拶をした女性は、ファンタジーでは有りがちな青い長髪にウェーブを掛けた美女と言うよりは、顔立ちの幼さから言って美少女と言えるだろう。しかし、体つきは大人びている。出るところは出て、引っ込んでいるところはちゃんと引っ込んでいる。

 女性の制服は前掛けの白エプロンに黒のメイド服である。胸元の生地だけが白くそれでいてエロく見えてしまう。

 これを作ったヤツはいい仕事をしている。


「…はいはい。お待ちしておりました。

 トウヤ様とウルス様ですね。ギルドマスターから伺っております。わたくしは、当局ギルドの全権代理人及びメイドをしておりますサファイアで御座います」


 お辞儀することで胸元に浮かぶ谷間がより一層少年の心を擽らせる。二十代半ばだろうといまの俺は十五のガキだからな。興奮しても問題ない。

 ただねぇ、影で身を隠している。この子がお饅頭みたく頬を膨らせているのが見てて可愛いけど腕が引き千切られそうで怖いんだよね。魔人だけあって腕力もそうだけど…握力は大人時分の俺以上じゃね?

 とまあ、それはそれとして。

 こんな若い子が全権代理人って大丈夫なんでしょうか。目測ではいまの俺とタメか、プラマイ一、二歳ってとこだぞ。

 礼儀や作法は、うむ。問題ない接客対応と言えなくもないがギルドの全権は俺が思っている以上に大きい筈だ。それを…

 まあ、いっか。俺には関係ないことだしな。


 続けてサファイアさんの案内で二階の執務室に連れてこられた俺達に一礼と奥で鎮座するギルマスらしき男? にも会釈して下がる。

 高い技術を必要とする装飾が施された座席と高級感ある黒色。もしくは漆塗りされた机からも想像できるように高い経歴キャリアを積んだ重要人物がこの席には相応しい訳であって、チャラいお兄さんが座っていたら注意するのが一般常識と言えよう。

 だってさ、普通は寡黙な壮年の男性とか戦争で傷を負った厳ついオッサンを誰だって想像しちゃうだろ?


「すみません、ギルドマスターはいつ頃来られます?」


 俺の質問に苦笑するチャラいお兄さん。

 クックックク。といった感じで顎を引いて笑っている。その笑い声に恐怖を覚えたのか、ウルスは俺の影に隠れて小刻みに震わせる。一体どうしたものだろう?


「ハハハ、悪いね。お嬢さん、試すようなマネしちゃって心の底から謝るよ。そっちのお兄さんは、なんのことやら。…と思っているだろうから教えておくと魔力を受けたのさ」


 は!?

 魔力を受けただ? どう言うことだ。いや、待てよ。異世界ファンタジーで有りがちな魔力抵抗レジストみたいなヤツか。そう考えるなら、大抵の筋は通るってもんだ。

 ウルスは人間ではなく、魔人だ。持っている魔力が大きければ大きいほど精神的に何か強いものを感じるのだろう。そういう意味合いで言えば、俺の場合は駄目な神様。略して駄神ダガミに作って貰った魔力を生み出す器官とやらの効果で魔力があってもウルスよりも魔力量が少ないから?

 ……イマイチ、ピンと来ないが。もしかしたら、魔力に対して疎いとか鈍感な可能性も捨てきれないではあるが…今はまだいいだろう。

 テンプレ的には、こういう話をする奴ってのは決まって賢者系のそれだが認めたくないな。こんなチャラいヤツがギルマスとか、マジでないわ。


「自己紹介しとこうか。

 僕は、この町のギルドを統括するギルドマスターにして六大聖騎士の一人。シャバラ=フロート。ヨロシクな、気軽にシャバラと呼んでくれ。

 さて、ここからが本題だ。

 君達は冒険者に成りに来たのだろうけど、それは出来ない相談だ。それはどうしてか? 当然、この疑問が湧くだろうが考えて見てくれ。君達のように才無き者に何が出来る? 冒険者はボランティアじゃない。ま、確かに村人やとある職種の人間たちから素材収集を頼まれることがないとは言わない。でもね、基本冒険者は魔物討伐してなんぼだし、討伐依頼を仲介するギルドとしては利益と信用が掛かってくる。

 擁するにーーー」


「外から来た余所者。それも異世界人に任せられる仕事もなければ、弱い俺たちの存在は反って邪魔だと言いたいんですか?」


「そ、いうこと。

 君、中々頭は回るみたいだね。気に入ったよ。でも僕は超現実主義者でね。見たことしか受け入れない。

 だからテストといこうじゃないか。な~に簡単なことだよ。今から出題する三つの項の内、二人で一つでも一ヶ月以内にクリアすれば一介の冒険者として認めようって話だ。

 ひとつ目は、金貨10枚を集めること。

 ふたつ目は、ライトグリズリーの討伐。

 みっつ目は、家を購入し自立すること。

 君達はウッズやマーブから愛されているようだが、そんな甘えは冒険者にはないものと思え!」


 達成できたなら、また来なさい。そう言い渡されて俺達は執務室から退出とギルドから半ば強引に追い出されたのであった。

 執務室に残ったシャバラは、椅子に腰かたままダラリとした不良ポーズである思考に老けていた。それは例外的対象の異世界人トウヤと連れのウルスについてだった。


 あれは面白い逸材やもしれんな。

 異世界人ってのは基本、魔力ゼロの戦闘職向きじゃなく生産職向きに対して彼は少なくとも100未満の魔力を持ち尚且つ、スキル持ちと来たもんだ。それにだ、連れている魔人の推定魔力量はあの若さで1000を越えている。

 面白いぞ、実に面白い。

 30年近く、鋼の町で平和ボケを味わってきたが彼等なら僕に辛味を帯びた刺激スパイスで楽しませてくれるかもしれない。


 シャバラは、机の上に足を置いてダラリとした格好のまま天井に目をやって不敵に嗤うのだった。


 

 

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サイドファンタジーで荒稼ぎする冒険者の御伽噺 三鷹キシュン @mitaka_kisyun

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