美術室に金田一耕助はいるのか?

はい、いません。

舞台は21世紀の東京なので、浮気調査以外で私立探偵などという職業が出てくるわけないのです。死体が出たら110番で、現場は立ち入り禁止。関係者はウンザリするくらい事情聴取を受け、署から一歩出た途端取材陣に小突き廻されるのである。犯人探しなんて滅相もない、人権保護団体から何飛んでくるかわかったもんじゃありません。

それなのに、である。

私たちは推理小説などという戯れ文を愛しているのだ。

犯罪という非日常に恋い焦がれ、流された血で上書きされた過去を想い、
何気なく通り過ぎてしまう日常にコッソリ潜んでいる罠に触れたいのだ。
そんなこと現実には絶対ありえない事を知っているのに

そして動機が弱いだの設定が矛盾するだの文句ばかり言いながら、昔々彼の手品のやうな種明かしに心踊った日々のことをつい忘れてしまう。
そう昔々・・・
私も高校生だった時がある。
屋上でコッソリタバコを吸い、お菓子に舌鼓をうち、イジワルもし、当然恋もする。そして彼等の前には殺人という謎がある。
今しばし、彼らと共にその不思議を追うのも悪くない。