【詩】白い線
悠月
白い線
月のない真っ暗な夜の真ん中に
かすかな白い線が伸びている
少年は、暗闇に目が慣れると
直線の痕跡を辿って歩いた
日射しとゆるやかに流れる風に
青い稲草はふるえつつ伸びてゆく
カレンダーの日付は次々にめくられて
白い胚珠は少しずつ上昇する
二重写しの緑がまぶしく燃えていた
ただいま、僕はまたここへ帰って来た
少年は天頂を見つめていた
呼吸の音、血管を流れるものの音を
かすかな蛍火のなかに聞いていた
大熊座の二重星がふるえていた
僕は星座図の間をさまよっていた
恒星の光はまぶしすぎて
僕の言葉はかくされてしまった
どうか、こことは違うどこかへ
そうして北の天頂に流れ着いた
僕は二重星を探していたんだ
人工衛星が黄道を横切った
白い直線の残像が走った
星空と水面と蛍の灯のなかで
彼の指先はかすかにふるえていた
みんな、いなくなってしまった
僕だけがどこにも旅立てなかったんだ
僕はいつだってお腹が空いていて
渇いていく日常に焦っていたんだ
遠くからやってくるものの予感に
なにかを期待してここへ来たんだ
交互にまたたく二重星の光に
少年は心臓の鼓動を聞いていた
白い直線の交差する場所で
もうひとりの少年が微笑んでいた
──僕もきっと、君とおんなじさ
ずっとなにかを期待してたんだ
二重星が青く燃えていた
彼の火がふたたび輝き始めた
声がこみ上げ、言葉がこみ上げ、
彼自身さえ知らなかったものが
おおきな流れが溢れて押し寄せた
わきあがるもののおおきな力に
少年の指先は熱く脈打った
語り合う声はまた声を呼んで、
いつまでもいつまでも響きつづけて
はじめての感情に声が震えた
君になら、なんだって言える気がする
あの二重星は、僕たちと同じ──
月のない真っ暗な夜の真ん中に
残響の心地よい風が吹いている
稲草は天頂を見つめ揺れている
白い線はどこまでも伸びている
明日、月が昇った眩しい空で
彼らの声は掻き消されるだろう
忘れられない二重星を探して
うらぶれた日々を過ごしていくだろう
いつかまた新月の夜が来たら
彼らはもう一度ここへ帰るだろう
ずっと、輝けなかった光で
つよく美しく響き合うだろう
そして百億年の時が流れたら
彼らはふたたび、星を見るだろう
彼らの言葉で、語り合うだろう
遠い星の燃える追憶の空に
白い線はどこまでも伸びている
【詩】白い線 悠月 @yuzuki1523
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