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闇鍋つゆ 3~4人前 [ストレート]
鍋用闇
洞窟の奥で採れた闇を贅沢に使った、具材の相性を気にする必要がない、何を入れても美味しく味がまとまる闇鍋つゆです。
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商品名:鍋用闇
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今日の夕飯、鍋にでもしようかな。
そう思って、スーパーの鍋の素コーナーにやってきた。
さて、どの味にしようかな。
ごま豆乳、キムチ、みそ、闇、鶏だし、トマト……。
うーん。迷うけど、やっぱ闇かな。
冷蔵庫の中を整理したいから、具材がけっこうカオスなことになりそうだし。
闇だったら、いちばん何入れても合うもんな。
――ということで、ストレートタイプの【鍋用闇】を一袋、手に取った。
買ってきた【鍋用闇】を使って、夕飯の闇鍋を作った。
鍋の素って、簡単においしく鍋を作れて、ほんと便利だなあ。
特にこの【鍋用闇】が出てきてからは、しょっちゅう夕飯、鍋にしちゃってる。
以前は、鍋といったらごま豆乳派だったんだけど。
今ではなんだかんだ、五回に四回は闇をえらんでる。
いやほんと、うまいんだもん、闇鍋。
【鍋用闇】のパッケージには「まさにヤミつき!」とか書いてあるけど、見るたび「それな!」って思う。これはヤミつきになる味ですわ~。
しかし、自分で作っといて、何食ってるかようわからんなこれ。
ぐつぐつ煮えてる鍋の中、ぜんぶ真っ暗で。
いったん闇にまみれたら、具材の区別がぜんぜんつかない。
いま箸で取ったの、なんだこれ。
んー……キャベツの芯? チャーシューの切れ端? ……あ、たくあんだこれ。
たくあんはまあ、食ってみればわかる。食感とか味とかで。
たまに、口に入れても最後までなんだかわかんない具、あったりするんだよな。自分で入れた具のどれか、には違いないはずなんだが……。
まあ、いいか、なんでも。
闇味にすれば、なんだっておいしくなるもんな。
+
あれ……? ない! ないぞ!
【鍋用闇】が、置いてない!
このスーパーには、いつも絶対あったのに!
もー、なんで今日にかぎって……。
ああ、だめだ。今日はもう、胃袋が闇鍋を待ち構えてる。
違う味の鍋じゃ、この欲求は満たされない……!
しょうがない。ほかのスーパー、回ってみよう。
……。
……ない。
……ここにも、ない。
……くっそー。こんだけ回っても、どこも闇だけ置いてないのかよ!
ほかの種類の鍋の素は、普通にそろってるのに!
なんで……なんで……。
おっかしいなあ、いくらなんでも。
【鍋用闇】って、この季節なら、そもそもたいていのスーパーに置いてるメジャー商品じゃん。
それがこんなにも見つからないことってある?
……もしかして。
なんか、あったのかな。
ちょっと、ネットで調べてみるか。
…………。
――えっ。
生産中止!?
う、うそだろ……。え……? じゃあ、あの闇鍋、もう二度と食えないってこと?
えー……えええー。そんなの、こまる……。
+
あー……あー……食べたいなー、闇鍋……。
どうにかして【鍋用闇】、手に入らないもんだろうか。
ネットの通販サイトとか、もうどこ見ても在庫切れになってたし……。
鍋の素で闇出してるメーカーって、いつも買ってたあそこだけだし……。
はあーっ。
………………あ。
待てよ? そういえば。
えっと。この前食べた【鍋用闇】の空袋、まだゴミに出してないはず……。
たしか、このゴミ袋の中に……。
あ! あったあった。
おお、やっぱりだ。
袋の裏に、闇の採取場の写真が載ってる!
えー、なになに……?
■■県■■■市の山奥にある洞窟……か。
ここで採れた闇を使って、あの鍋の素は作られていた、と。
■■県――行けないことはないな。
このさい、自分で闇、採りに行ってみるか!
あ、そーだ。どうせだから、あいつらも誘ってみよう。
一人鍋もいいけど、たまには友だち同士集まって――……。
みんなで採ってきた闇を使って、闇鍋パーティーだ!
+
――んで。やってきました、■■県■■■市!
ふー……。
写真の洞窟って、ここだよな。
【鍋用闇】の空袋……は。あ、よかった。ちゃんと忘れず持ってきてた。
袋の裏の写真と、洞窟の入口の景色を見比べて……っと。
よし、よし。間違いないだろ、これ。
おー。ここが、いつも食べてた闇鍋の、原料の闇が採れる場所かー。
なんか、感慨深い……。
しっかし、ほんとに山奥だねー。交通の便が悪いったら。
こっから日帰り、できるかな。
まあ、野宿も想定していろいろ持ってきたし、いざとなったら……。
ん。そんじゃ、行きますか!
洞窟の中へ、ゴー!
………………。
……うっひゃー。
中、ほんと真っ暗じゃん。こわー。
ライトつけたい……けど。闇を採るのに明かりはやっぱ、ご法度だよな。うう……。
けど、さっすが食用の闇の採取場。見るからに良質な闇だらけ。
なんかこう、ふだんそこらへんで見かける闇より、ずっとなめらかで、濃厚で、舌触りがよさそうで……。
ああーっ。もうっ、見てるだけで食欲わいてくる闇って感じー!
よし、それじゃ、そろそろ。
闇採り、始めますか。
正直、闇の採り方ってちゃんとは知らないんだけど……。
とりあえず、【鍋用闇】の空袋、きれいに洗って持ってきたから……この袋に闇を詰めれば大丈夫、かな?
…………。
袋、あっという間にいっぱいになっちゃった。そりゃそうか、ストレートつゆ3~4人前の袋だもんな。鍋一回分の闇入れるので精いっぱい、か。
……腹へったなあ。
……せっかくだから、ちょっと。
採れたての闇、この場で味見してみますかね。
空袋の中に入れといたビーフジャーキーに、そろそろ闇が染みた頃合いかと思いますし。
……ふふふ。
――んーっ。
うまっ! やっぱ、採れたての闇は違うなあー。
これだけ新鮮だと、闇自体には味つけいらないね。
むしろこの素朴さが、闇本来の風味を味わってるって感じで……うん。
……うん……うん。
……あ。
おーい!
みんなも食う? さっと闇に漬けたジャーキー!
……おーい!
……おーい?
……おーい、ってば!
ちょっと! みんなー? どこいったー?
……あれ。
……うそ。ほんとに、はぐれちゃった? やばっ……。
ど、どーしよう……。
みんなのこと、さがしに行かなきゃ。
――って。
……あれ?
…………?
なんか……立てないぞ?
っていうか……え?
……俺、いつ座ったんだ?
……あ?
ちょっと待て。ちょっと待て。
なんで、こんな真っ暗なの?
ここどこ?
……あ。……ああ、そっか。洞窟か。
そうだよな。
だって、真っ暗な洞窟の奥でないと、闇は採れないわけだし。
だから、【鍋用闇】のメーカーはここで。
……ん?
鍋用闇?
あれ? そんな商品、ほんとにあったっけ?
ん……? ……んん?
え。でも。
俺らはえっと……。いつも食べてる【鍋用闇】が、生産中止になったから。
どうしてもまた、あの闇で作った闇鍋が食べたくて。
それで、友だちみんなで、闇の採取場のこの洞窟に――……。
――じゃなくて!
違う違う違う。
そうだ、ここには。
俺は……大学のサークルの仲間たちと……。
■■県■■■市の山に……登山に来て……。
途中で見つけたこの洞窟の中に、ちょっと、入ってみようってなって。
……その、洞窟の中が……迷路みたいに入り組んでて……。
……中で、迷って……出られなくなって……。
俺は……友だちと、二人で行動してて……。
ほかのみんなとはぐれたあとも……ずっと……あいつと一緒に……。
……えっと。……だから?
この、空袋は……?
【鍋用闇】の、鍋つゆが入ってた袋――じゃ、なくて。
持ってきてた食料の……最後のパック。
その食料も……何日も前に……空になって。
…………?
……え。
じゃあ。
今、口の中にあるのって――……。
あれ?
ん?
…………。
あ。
ああ、でも。
こんなの、いつものことか。
そうそう。闇鍋のときは。よくあるよくある。
だって。
ぜんぶ真っ暗で。
いったん闇にまみれたら。
具材の区別がぜんぜんつかない。
口に入れても。
最後までなんだかわかんない具。
あったりするんだよな。
だから。
まあ。
いいか、なんでも。
闇味にすれば、なんだっておいしくなるもんな。
-終-
世にも奇妙な商品カタログ【ホラー短編集】 ジュウジロウ @10-jiro
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