新商品、入荷しました!!

闇鍋つゆ 3~4人前 [ストレート]

鍋用闇

洞窟の奥で採れた闇を贅沢に使った、具材の相性を気にする必要がない、何を入れても美味しく味がまとまる闇鍋つゆです。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 商品名:鍋用闇

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



 今日の夕飯、鍋にでもしようかな。

 そう思って、スーパーの鍋の素コーナーにやってきた。

 さて、どの味にしようかな。

 ごま豆乳、キムチ、みそ、闇、鶏だし、トマト……。

 うーん。迷うけど、やっぱ闇かな。

 冷蔵庫の中を整理したいから、具材がけっこうカオスなことになりそうだし。

 闇だったら、いちばん何入れても合うもんな。

 ――ということで、ストレートタイプの【鍋用闇】を一袋、手に取った。



 買ってきた【鍋用闇】を使って、夕飯の闇鍋を作った。

 鍋の素って、簡単においしく鍋を作れて、ほんと便利だなあ。

 特にこの【鍋用闇】が出てきてからは、しょっちゅう夕飯、鍋にしちゃってる。

 以前は、鍋といったらごま豆乳派だったんだけど。

 今ではなんだかんだ、五回に四回は闇をえらんでる。

 いやほんと、うまいんだもん、闇鍋。

【鍋用闇】のパッケージには「まさにヤミつき!」とか書いてあるけど、見るたび「それな!」って思う。これはヤミつきになる味ですわ~。


 しかし、自分で作っといて、何食ってるかようわからんなこれ。

 ぐつぐつ煮えてる鍋の中、ぜんぶ真っ暗で。

 いったん闇にまみれたら、具材の区別がぜんぜんつかない。

 いま箸で取ったの、なんだこれ。

 んー……キャベツの芯? チャーシューの切れ端? ……あ、たくあんだこれ。

 たくあんはまあ、食ってみればわかる。食感とか味とかで。

 たまに、口に入れても最後までなんだかわかんない具、あったりするんだよな。自分で入れた具のどれか、には違いないはずなんだが……。


 まあ、いいか、なんでも。

 闇味にすれば、なんだっておいしくなるもんな。


     +


 あれ……? ない! ないぞ!

【鍋用闇】が、置いてない!

 このスーパーには、いつも絶対あったのに!

 もー、なんで今日にかぎって……。

 ああ、だめだ。今日はもう、胃袋が闇鍋を待ち構えてる。

 違う味の鍋じゃ、この欲求は満たされない……!

 しょうがない。ほかのスーパー、回ってみよう。


 ……。

 ……ない。

 ……ここにも、ない。

 ……くっそー。こんだけ回っても、どこも闇だけ置いてないのかよ!

 ほかの種類の鍋の素は、普通にそろってるのに!

 なんで……なんで……。


 おっかしいなあ、いくらなんでも。

【鍋用闇】って、この季節なら、そもそもたいていのスーパーに置いてるメジャー商品じゃん。

 それがこんなにも見つからないことってある?


 ……もしかして。

 なんか、あったのかな。

 ちょっと、ネットで調べてみるか。

 …………。

 ――えっ。


 生産中止!?


 う、うそだろ……。え……? じゃあ、あの闇鍋、もう二度と食えないってこと?

 えー……えええー。そんなの、こまる……。


     +


 あー……あー……食べたいなー、闇鍋……。

 どうにかして【鍋用闇】、手に入らないもんだろうか。

 ネットの通販サイトとか、もうどこ見ても在庫切れになってたし……。

 鍋の素で闇出してるメーカーって、いつも買ってたあそこだけだし……。

 はあーっ。


 ………………あ。

 待てよ? そういえば。

 えっと。この前食べた【鍋用闇】の空袋、まだゴミに出してないはず……。

 たしか、このゴミ袋の中に……。

 あ! あったあった。


 おお、やっぱりだ。

 袋の裏に、闇の採取場の写真が載ってる!

 えー、なになに……?

 ■■県■■■市の山奥にある洞窟……か。

 ここで採れた闇を使って、あの鍋の素は作られていた、と。


 ■■県――行けないことはないな。

 このさい、自分で闇、採りに行ってみるか!

 あ、そーだ。どうせだから、あいつらも誘ってみよう。

 一人鍋もいいけど、たまには友だち同士集まって――……。

 みんなで採ってきた闇を使って、闇鍋パーティーだ!


     +


 ――んで。やってきました、■■県■■■市!


 ふー……。

 写真の洞窟って、ここだよな。

【鍋用闇】の空袋……は。あ、よかった。ちゃんと忘れず持ってきてた。

 袋の裏の写真と、洞窟の入口の景色を見比べて……っと。

 よし、よし。間違いないだろ、これ。

 おー。ここが、いつも食べてた闇鍋の、原料の闇が採れる場所かー。

 なんか、感慨深い……。

 しっかし、ほんとに山奥だねー。交通の便が悪いったら。

 こっから日帰り、できるかな。

 まあ、野宿も想定していろいろ持ってきたし、いざとなったら……。

 ん。そんじゃ、行きますか!

 洞窟の中へ、ゴー!


 ………………。

 ……うっひゃー。

 中、ほんと真っ暗じゃん。こわー。

 ライトつけたい……けど。闇を採るのに明かりはやっぱ、ご法度だよな。うう……。


 けど、さっすが食用の闇の採取場。見るからに良質な闇だらけ。

 なんかこう、ふだんそこらへんで見かける闇より、ずっとなめらかで、濃厚で、舌触りがよさそうで……。

 ああーっ。もうっ、見てるだけで食欲わいてくる闇って感じー!


 よし、それじゃ、そろそろ。

 闇採り、始めますか。

 正直、闇の採り方ってちゃんとは知らないんだけど……。

 とりあえず、【鍋用闇】の空袋、きれいに洗って持ってきたから……この袋に闇を詰めれば大丈夫、かな?


 …………。

 袋、あっという間にいっぱいになっちゃった。そりゃそうか、ストレートつゆ3~4人前の袋だもんな。鍋一回分の闇入れるので精いっぱい、か。

 ……腹へったなあ。

 ……せっかくだから、ちょっと。

 採れたての闇、この場で味見してみますかね。

 空袋の中に入れといたビーフジャーキーに、そろそろ闇が染みた頃合いかと思いますし。


 ……ふふふ。

 ――んーっ。

 うまっ! やっぱ、採れたての闇は違うなあー。

 これだけ新鮮だと、闇自体には味つけいらないね。

 むしろこの素朴さが、闇本来の風味を味わってるって感じで……うん。


 ……うん……うん。

 ……あ。

 おーい!

 みんなも食う? さっと闇に漬けたジャーキー!


 ……おーい!

 ……おーい?

 ……おーい、ってば!

 ちょっと! みんなー? どこいったー?


 ……あれ。

 ……うそ。ほんとに、はぐれちゃった? やばっ……。

 ど、どーしよう……。

 みんなのこと、さがしに行かなきゃ。


 ――って。


 ……あれ?


 …………?


 なんか……立てないぞ?

 っていうか……え?


 ……俺、いつ座ったんだ?

 ……あ?


 ちょっと待て。ちょっと待て。

 なんで、こんな真っ暗なの?


 ここどこ?


 ……あ。……ああ、そっか。洞窟か。

 そうだよな。

 だって、真っ暗な洞窟の奥でないと、闇は採れないわけだし。

 だから、【鍋用闇】のメーカーはここで。


 ……ん?


 鍋用闇?


 あれ? そんな商品、ほんとにあったっけ?


 ん……? ……んん?

 え。でも。

 俺らはえっと……。いつも食べてる【鍋用闇】が、生産中止になったから。

 どうしてもまた、あの闇で作った闇鍋が食べたくて。

 それで、友だちみんなで、闇の採取場のこの洞窟に――……。


 ――じゃなくて!


 違う違う違う。

 そうだ、ここには。

 俺は……大学のサークルの仲間たちと……。

 ■■県■■■市の山に……登山に来て……。

 途中で見つけたこの洞窟の中に、ちょっと、入ってみようってなって。

 ……その、洞窟の中が……迷路みたいに入り組んでて……。

 ……中で、迷って……出られなくなって……。

 俺は……友だちと、二人で行動してて……。


 ほかのみんなとはぐれたあとも……ずっと……あいつと一緒に……。


 ……えっと。……だから?

 この、空袋は……?

【鍋用闇】の、鍋つゆが入ってた袋――じゃ、なくて。

 持ってきてた食料の……最後のパック。

 その食料も……何日も前に……空になって。


 …………?

 ……え。

 じゃあ。

 今、口の中にあるのって――……。


 あれ?

 ん?


 …………。


 あ。

 ああ、でも。

 こんなの、いつものことか。

 そうそう。闇鍋のときは。よくあるよくある。

 だって。

 ぜんぶ真っ暗で。

 いったん闇にまみれたら。

 具材の区別がぜんぜんつかない。

 口に入れても。

 最後までなんだかわかんない具。

 あったりするんだよな。

 だから。

 まあ。

 いいか、なんでも。



 闇味にすれば、なんだっておいしくなるもんな。




 -終-

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世にも奇妙な商品カタログ【ホラー短編集】 ジュウジロウ @10-jiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ