第2話 第二にして最大最終の関門


入学式自体は三十分程で終わった。

校長先生による我が校の理念がなんちゃらみたいな話の後、副校長からの入学式後の行動についての説明と指示。

それだけで早々と入学式は終了し、新入生達は指示にあったとおりに各自のクラスへと順番に移動していく。


僕もまた、周りのクラスメイトと共に自分のクラスへと向かっていた。


「校長の話たるかったなーー」

「俺らのクラス4階かよ。登るのめんどくせー」


そんなありがちな会話をしている奴等もいれば、緊張した面持ちでただ歩く奴もいる。

会話をしている奴等はきっと入学前からの知り合いなのだろう。知り合いのいない奴はやはり緊張しているようだ。


第一関門を突破したが、すぐに第二にして最大、そして最終関門が待ち受けている。

僕もまた緊張を隠すように顔をこわばらせてしまっているのではないだろうか。


僕が今から全てをかけて望むのはもちろん、


『自己紹介』


だ。


気を引き締めたところで教室へと到着する。

出席番号順に並べられた席へと各々が着席していく。僕は名字がやまとなので出席番号は最後から数えて3番目だ。

窓際の後方の席へと座り心を落ち着かせながら担任教師が到着するのを待つーー。


『自己紹介』

それは入学式とは違い、見た目だけではなく、声、態度、雰囲気、多くのものを知ることができ、ここでクラスメイトから自分に対する第一印象の全てが決まると言っても過言ではないだろう。

ここでつまづいた奴は決して自分の思い描くキャラにはなれない。

高校デビューで新しい自分にならんとするものにとってここは最大の関門なのだ……!


クラスメイト達も皆、ここにきて緊張感を感じ始めたのか、先程まであった少しの喧騒も落ち着いて静寂が教室内を包み込む。

完全な静寂が訪れてから十秒程でガラリ、という音が起きた。

担任教師がドアを開けた音だ。


「みんな席についているようだなーー。ではとりあえずーー、SHRを始めるぞーー。」


入ってきたのは男性教師だった。

気の抜けた声で話を始める。見たところ年齢は四十歳手前といったところだろうか。背は高くないが細身なためにスーツ姿がよく似合っている。それだけに手入れの施されているようには見えない不清潔な無精髭から違和感を感じずにはいられない。


「まあそうだなーー、明日からの日程やらなんやかんやを説明しなきゃいけないらしいんだがーー、そういうの全部書いてあるプリントつくっといたからーー、それ読んどいてーー。」


……テキトーだな。この教師。

中年教師はおもむろにプリントを配り始めた。配られたプリントに目を落とすと、明日からの日程がわかりやすくまとめられていた。なるほど。仕事はできるけど面倒くさがりということか。

だがこういう教師の方がいい。余計に気を回したり、関わろうとしたりしてこないだろうから、こちらとしても気楽な学校生活を送れるというものだ。


「あと

はーーあ、、俺の名前言ってなかったな。俺は肥後 三郎だ。気軽にサブちゃんと呼んでくれていいぞーー。」


サブちゃんという安易な愛称に少し笑いが起こる。この教師のノリはなんとなく好ましい。いい担任教師に巡り会えたのかもしれない。

そしてこの教師は早速教師らしく生徒にいい見本を見せてくれている。

今この教師が行った『自己紹介』は素晴らしいものであったと言えるだろう。


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高校デビュー @jiko-ji

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