第1話 第一の関門

俺は考え事をしているだけでテンションがあがってしまうほど気分が高揚している。

だがそれも自然の摂理というものだろう。

なぜなら、今日が入学式だからだ……!

俺、大和大河15歳は今日から高校生になる。

俺が通うことになった高校は自宅から電車で1時間ほどの距離だ。

そこそこ偏差値は高いが、通学に長時間かけるほどの魅力的な何かがこの公立高校にあるのかと問われれば即答できる自信はない。

では俺がこの高校を選んだ理由とはなんなのだろうか?

それは一見負担に思える「通学に長時間かける」というところにある。

通学に長時間かかる、それが意味することは家から遠いということだ。ココ! 重要!

先程も言ったような気がするが、俺は高校デビューするのだ! !

それにあたって俺を知る人間がいてはならない。

つまり、家から遠いこの高校なら昔からの知り合いに出くわすことなく、昔の俺を知らない人間たちの前で新たな自分をつくることができる、これが俺がこの高校を選んだ理由である。

ふふふ……こんな事を考えつく俺まじ策士だぜ! ! !


俺は1人で誰かに向かって聞かれてもいない説明をし続ける。

それほど気分が昂っているのだ。

気づけば俺は自分が今日から通うことになる学び舎へと足を踏み入れていた。

ふっ……これはあのセリフの出番かも知れないな。


俺の高校デビュー生活はこれからだ……! ! !



おっと、打ち切りフラグを立ててる場合じゃないな。気をつけるのを忘れていた。


「俺」じゃなくて、「僕」だったな……

今のうちに慣れておかなくてはいけないな。

僕、僕、僕、僕、僕、僕、僕……

なんか変な人みたいだな。

うっかり口に出してしまう前にやめておこう。

僕は大和大河です。よしいけるな。いけるのか?いやいくしかない。

さっきからひとり問答しかしていない。

これではもはや変な人“みたい”ではなく、変な人そのものなのではないだろうか。

……余計なことは考えなくていいな、うん。



さて、気を引き締めたところで俺……じゃなかった僕をまちうけるのは高校デビューの第一関門、『入学式』である! !


入学式は誰とも関わらないように見えるが、実はそうではない。

俺のように高校デビューという大業を成し遂げようとしてはいなくても、新しい生活が始まるとあらば、皆少なからずその生活に目的や希望をもっているのである。

0から始まる新しい生活において、人間関係というのは重要なことだ。

そして人間関係の構築はこの入学式から始まるといっても過言ではない。

入学式では新入生同士が言葉をかわすことはないが、それゆえに新入生達はお互いの外見からなんとなくの格付けをするのである。

人の見た目からその人の全てを知ることはできない。

だが一つのことを知ることはできる。

それは他でもなく見た目そのものである。

新しい学校、新しいクラスでの人間関係。

高校生ぐらいの人間関係ともなれば、いわゆるハデーズ、そしてジミーズというものは明確に存在する。

ハデーズ、ジミーズというのはまあ、言葉の通り派手なリア充集団と地味な非リア集団ということである。

そのハデーズ、ジミーズという分け方において絶対的な審査基準は「見た目」である。

そして見た目が良くなくてもハデーズになるためには、ハデーズと仲良くなる事が必要になる。

そこで入学式でクラスメイトの見た目のレベルを把握、そして格付けすることは非常に重要な事なのである……。


そんなことを考えながら入学式の行われる体育館への道案内にしたがって体育館へと向かい歩を進める。

どうしても歩いていると無駄に思考を巡らせてしまう。

僕の悪い癖。

あ、今自然と僕って言えた! !

下手なモノマネのおかげだな……。

某刑事ドラマの警部殿に感謝を覚えつつ、体育館へと入る。

既に新入生全320人のうちの多くは集まっているようだ。

まず受付という紙が貼られた机に座る事務員らしき女性のもとへと向かう。

「おはようございます。大和大河です。何組ですか?」

「大和大河さん……えっと、7組ですね。」

さらりと会話を済ませ、自分のクラスを知ることができた。

1年7組か……

まあ何組だったら何があるとか無いわけだが、ラッキーセブンということでとりあえず喜んでおこう。

1年7組は…左端の列だな。

先についたものから2列で並んでいるようだ。半分より少し後ろぐらいの位置へと並び、周囲を伺う。

見た目格付けを始めるとしよう。

ざっと見た限りではそこまで目立つ奴はいないようだ……。

最初はそう思ったものの、一番前に並ぶ明らかに周囲とは違う人物を発見する。

後ろから見ているだけなために顔をはっきりと確認することはできないが、高校一年生女子とは思えないモデルのようなスタイルのよさと身長の高さ、そして腰まで伸びた金髪が華やかさと気品を漂わせている。

しかし世の中には後ろ姿美人というものが存在する。

あまり期待をするとダメージが増強されるので、とりあえず顔は残念な方向に想像しておこう。

どちらにせよ彼女がクラスの中でハデーズの覇権を握る可能性は十分考えられるだろう。

金髪の彼女を見た目格付け暫定1位に設定したところで後ろがやや騒がしい事に気付き、振り返ると数人の仲良さげな連中が声を潜めながら楽しそうに話をしている。

「やったな! 俺ら4人とも同じクラスじゃん! 」

「みんなと同じクラスになれてよかった〜〜」

「せっかく新生活がスタートするんだ。

俺はみんな分かれても面白かったと思うがな。」

「はーいはーい。

4人一緒になれて嬉しいんでしょ。

ツンデレする意味もわからないわ。」


こ、これは……。

こいつらはもってるな。

なんかこう……ハデーズのオーラ的なやつ。

見た目格付け暫定1位は金髪ちゃんから、モッテルズに変更だな。

僕はもってないな。

なんかこう……あだ名のセンス的なやつ。

まあそれはさておき、僕の中でクラスメイトの見た目格付けは終了だ。

しかし僕にとっては周りのクラスメイト達もきっと見た目格付けをしているであろうことが重大な問題である。

高校デビュー第一印象は最重要だ。

だからこそこの入学式は第一関門足り得る。


僕は控えめに周りの視線を探る。やはり時折自分への視線を感じる。だがその視線は一瞬止まるだけですぐに他へと移っていく。


……成功だ。第一関門突破。


「周りは“僕”に興味をもってない。」




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