「空気や水が美味しかった頃」の童話や、日常のショート・ショートタイトルになっているハクシャクノテンシはよくある話だが、童話のような世界観が読んでいるこちらを素直に、無防備にさせ琴線に触れてくる。
何の気なしに1話目から読んだ結果、全て読み切ってしまった。短編一つ一つの世界観がしっかりと描かれていて、癖になる面白さにハマること間違いなし。まさに、恐ろしくも美しい、おとぎ話の進化形だ。
『ハクシャクノテンシ』書き出しの一文、それだけで読者はこの世界に惹き込まれる。吸血鬼でありながら血が吸えないどころか、日光も十字架もニンニクも好きという設定で興味を抱き、優しい語り口の中に混ざるユーモアにくすりとした。そして悲しい余韻の残るラスト。子供でも分かる、大人でも思わず感じ入ってしまう、そんな物語だ。この物語と出会ったのは今回が初めてではない。しかし、連作になっているというのはこの作品を見つけて初めて知った。この嬉しい誤算をゆっくり味わいながら読み進めたいと思う。
幼い頃に読んだ童話のような、読むと温かい気持ちなるお話です。「最近、重くてシリアスな話ばかり読んでて疲れた」というそこのあなた。ぜひ一度読んでみて下さい。張り詰めたあなたの心を癒してくれること間違いなしです。個人的には最初と最後の、優しくてちょっぴり変わり者の、バンパイアのハクシャクの話が良かったです。
哀しさと優しさが寄り添うようなお話です。確かに童話風で強烈な出来事もふんわりした描写で、読んでいて神経の負担にはなりません。でも、なんの感情と名付けることはできませんが、人間の感情の底をゆっくりと静かに揺らす力のある物語だと思います。あ、女性向けかなという気はします。でもちょっと疲れた男性の方にもお勧めできると思います。