第一章 のんびり

食べる

 ジエライト=スノークロスは努力家だった。

 悪く言えば諦めが悪かった。

 彼はカリキュラムを同時に二つ取り、九歳の頃には一人前の魔技師クリエイターの証であるバッヂを取得、十五歳の今では冒険者カリキュラムの特級クラスに登りつめている。今年度の終わりには二つの卒業証を持つ珍しい人物が誕生するだろう。

 講義中はいたって真面目だが、その反動のように休み時間にはぐうたらしている。

 特に後輩であるウィルにからかい目的でしょうもない頼み事をしていた。大抵報酬として魔法道具マジックアイテムの売上げ金を押し付けている。

 養成所は様々な方面からの補助で成り立っている。そのためほとんどの設備が無料だ。もちろん学食も。

 だからジエライト──ジオは今日のカレーまん二十個などというようなバカげた注文をし、迷惑料のようなものとして金銭を払っている(正確には現地で払うのはウィルだが)。

「あーうまかった!」

「え、もう食べたんですか?!」

 ウィルは袋を丸めてゴミ箱に投げるジオを見て退いた。

「普通だろ。ってかウィルおっせーな、まだ食ってんのか」

「ウィルの方が普通よ」

 エリシエル──エリスが最後のカレーまんを齧りながら冷たく言い放つ。

「えー、俺ちゃんと噛んでるぞー」

「貴方は何かこう、食に関しては何かの一線を越えているのよ多分」

「多分?」

「そう、多分」

 エリスは淡々とよくわからないことを言っていた。

 ウィルはエリスが笑ったところをあまり見たことがない気がした──いや、見たとしてもそれはニヤリ……というような不敵なもので、この女のひとにはどうも『かわいさ』より『かっこよさ』の方が備わっているのかもしれない。

 ほどなくしてエリスもウィルも昼食を終え、しばらくして午後の講義の時間になる。

 時間ぴったりに、担任が教室に入ってきた。

「よおしガキども、今日も死なないようにがんばれよー」

 棒読みのようにそう言った彼の肌には、無数の傷痕が残されていた。

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不協和音クインテット 千里亭希遊 @syl8pb313

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