不協和音クインテット
千里亭希遊
序章 化け物たちの跳梁跋扈
今年の人材は豊富のようです
ウィリアム=ウィルドは天才だった。
だいたいの人間は数え年六歳の四月に、職業ギルドが開いている養成所に入る。
午前中は読み書き算盤、午後はより専門的な授業を、というのが世界中どこの養成所でも取られているスタイルだった。
午前中の読み書き算盤は一年生から始まり九年生で普通終わる。余程のことがなければ皆一年で一上がっていく。
午後からの専門授業は下から九級、上は特級とされるクラスからなり、年三回ある試験によって上下する。
このシステムの中で、大抵の人間が十五歳になる年で卒業していくのだが、ウィルは九歳にして読み書き算盤は修了、専門授業は特級クラスに所属していた。
専門は何かというと、冒険者カリキュラムである。
専門授業は三級クラス所属で既に社会に出てもおかしくない能力を有する者たちになる。ウィルの実力は既にプロの冒険者並といえたが、如何せんまだ子供だ。パワーにも自己責任能力にも欠ける。
そのためか養成所はまだ卒業試験を受けさせはしなかった。
かといって彼はモラトリアムをだらだらと過ごしたりはしなかった。
この年のシアン養成所は奇跡的に豊作で、二級以上の化け物並の実力者たちがウィルを合わせて五名もいた。
彼ら同士でお互い競い合い、切磋琢磨に興じていた──それも、遊び感覚で。
十五歳で特級クラスに進級したのがジエライト=スノークロス。
十三歳で特級クラスに進級したのがエリシエル=ランカスター。
十三歳で一級クラスに進級したのが
十一歳で二級クラスに進級したのがミレーユ=オービット。
ウィルには四人全員戦闘及び研究の狂人に見えていた。そして自分は断じてそうではないと思い込んでいる。
「ウィル腹減ったカレーまん買ってきて」
「断る」
昼の陽気に教室でだらだらしつつ突如ジオからお使いを言い渡されてウィルは即断った。
「お釣りあげるからさー」
動くのがものすごく面倒くさそうだ。のろのろと財布から金貨を数枚取り出して差し出してくる。
「カレーまん二十個よろしく」
「食い過ぎだろ!?」
カレーまんだけをひたすら二十個食べるというのはなかなか苦行なのではないだろうか……。
そもそも学食にそんなにあるだろうか。頼めば作ってもらえそうな気はするが。
色々と納得行かないところがあるが、ジオが差し出してきた金貨数枚はお釣りのほうが莫大だ。
なんて金銭感覚をしているのだろうこの先輩は。
金に釣られるのも癪ではあったが、どうせ自分も昼食を買いに食堂には行かなければならなかったので、頼まれておいた。
カレーまん二十個と自分のサンドウィッチを抱えて教室に帰ると、ぐでーっとしていたジオが目を輝かせてこちらを向いた。
「せんきゅーせんきゅー! 持つべきものは可愛い後輩だな!」
でかい紙袋を渡してやるとさっそくカレーまんに手を伸ばす。
大食らいではあるがきちんと一口の咀嚼は三十回前後(推定)、きちんと味わって食べているらしい。
一応残りの金貨を返そうとしてみるがいつも通りそっぽを向かれた。ありがたく頂戴する。
ジオが幸せそうな顔でひたすらカレーまんを頬張っていると、もう一人の特級生、エリスが教室に入ってきた。
「いい匂いね」
自然な動作で彼女はジオの袋からカレーまんを三つ抜き取るとマイペースにかじり始める。
ジオは気にする素振りもない。
エリスはカレーまんをかじりながら、教室備え付けのポットで湯を沸かし始めた。何の詠唱もせず一瞬で沸騰させると、さらに何の詠唱もなくちょうどいい具合にまで冷ます。
「水分もきちんと取りなさいよね」
エリスは淡々と言いながら紅茶を三杯淹れ、それぞれの前に置いていく。
「ありがとうございます」
ウィルがペコリとおじぎをするとエリスは必要ないとばかりに手を振った。
これが、このクラスのよくある光景だった。
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