第2話

-松木さん、松木さん。


夜勤明けの朝自分の眠い目もこすりながら松木さんを起こす。

松木さんは目をあまり開かず口をむにゃむにゃと動かした。


-朝です。


「おはよ。ありがと。」


-何がです?


「今日も、生きてたから。」


-ふーん。そりゃ生きてますって。


私は彼を見ようとせず朝の点滴をつなげる。

事務的、とはこういうことを言うんだろう。

事務員の私は時計を見ながら脈を取る。

その時松木さんは私の手を握った。


「冷たい。」

私の手の表面を彼はそう表現した。

彼は表面を表現したのにもかかわらず、自分の内部まで言い当てられた気がして眠気はどこかにいってしまった。

そして早口でこう言った。


-心は温かいはずですけど。


「知ってるよ。」


彼は眼をうっすら開けて私をしっかり見据えてもう一度言った。


「知ってる。」


急に自分の心臓が拍動し、首に汗がつたっていくことを認識した。


-ありがとう。


私の口から思ってもいない葉が拍出され時が止まった。


彼はまだまっすぐ私を見据えたままこう言った。


「何が?」

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