第42話
「良かったらさっきのお礼もあるし一緒に食事でもどう?」
店を出てアイリーンお姉ちゃんがベアトリスさんを夕食に誘う。辺りは暗くなり始めていて明かりを灯したお店や飲み屋が美味しそうな匂いを出してお客を誘っている。
「丁度良いわ 私も食事に誘おうと思っていた所なの ご一緒させてもらうわ」
ベアトリスさんを伴ってアイリーンお姉ちゃんが目星を付けていた石窯亭に向かう事になった。坑夫や冒険者だろうか?町を行き交う人が増え、家や店に入って行く人が通りを賑わしている。
石窯亭に着くとチーズの焼ける匂いだろうか?良い匂いが漂って来て空腹を刺激する。3人でお店の中に入り、4人席のテーブルへ座る。
石窯亭はその名の通り石窯で焼いたピッツァを名物にしている様で、周りのテーブルにはチーズの匂いと粗挽きソーセージやベーコンなんかの美味しそうな匂いで充満していた。
3人それぞれ注文するが文字だけじゃどんな料理か分からない…。前世のレストランみたいな料理の写真が載ったメニュー表じゃないから適当にピッツァと分かる物を頼んでおいた。
「ベアトリスさんが頼んだ冬鳥の巣ってどんな料理なんですか?」
森の狩人だ冬鳥の巣だとかこの世界の料理は一度注文してみないと名前からでは判断できない料理が多い気がする…。まぁ前世でも海外に行ったら有名な料理以外は良く分からないか。
「ふふ 来てのお楽しみよ」
アイリーンお姉ちゃんとベアトリスさんを交えて3人でお喋りしながら料理を待つ。話を聞くと、どうやらベアトリスさんは1人で冒険者としてやっている様だ。アイリーンお姉ちゃんの時もそうだったから1人の冒険者と言うのは珍しくも無いのかもしれない。
「はい! お待ちどおさん!」
店員が3人の料理を運んでくる。アイリーンお姉ちゃんは粗挽きソーセージやベーコンなんかが盛りだくさんの料理で、自分のはオニオンやベーコンやキノコが乗ったオーソドックスなタイプのピッツァだった。
「チーズがとろけて美味しー」
「やっぱり出来立てのピッツァは最高ね! ビールも美味しいし!」
アイリーンお姉ちゃんがビールを飲みながらテンションが高い。ベアトリスさんもワインなんて頼んで優雅に料理を食べている。
「ベアトリスさんの頼んだ料理はパスタだったんですね」
「ここのはピッツァに負けない位美味しいって有名よ」
冬鳥の巣とは言い得て妙で、平たく太い麺にほうれん草とベーコンとキノコが絡めてあり塩コショウで味付けされていて真ん中に半熟の卵が乗っかっている。
言われてみれば鳥の巣の様な形をしている。真ん中の半熟卵を崩して卵を絡めながら食べる姿を見るとパスタも良いなぁなんて思ってしまう。
「一口あげようかしら?」
ベアトリスさんが悪戯っぽく微笑みながら聞いて来る。そんなに物欲しそうな顔をしていただろうか?少し恥ずかしかったがお言葉に甘えて一口だけ貰う事にした。
「パスタも美味しいですね」
「うふふ」
魔道具屋では良く分からなかったが、お店の中でコートを脱いだベアトリスさんは褐色の肌にナチュラルカールした薄紫色のロングヘアーが良く似合う綺麗な女性だった。歳はアイリーンお姉ちゃんと同じ位だろうか?こちらを見ながら微笑む姿は妖艶さを漂わせていて少しドキドキする。
「相談なんだけど・・・良かったらニコール君が依頼した魔道具の試し切りを私にさせてくれないかしら?」
食事を終えた所でベアトリスさんが話を持ち掛けて来る。メガラクネの素材で出来た魔道具の試し切りをしたいとの事だが、ベアトリスさんのお陰で安く魔道具が出来そうなのだから勿論OKだ。
「勿論良いわよ ニコールも良いわよね?」
「うん!」
「良かったわ それで・・・試し切りついでに提案なんだけど 冒険者ギルドで出されてるフォルシアンヴァラヌスの討伐依頼があるのを知っているかしら? 試し切りにその依頼をやろうと思うんだけど どうかしら?」
「それは良いわね! 私達も丁度フォルシアンヴァラヌス討伐依頼を受けようと思っていたのよ」
アイリーンお姉ちゃんはお酒が入って上機嫌なのかすぐに了解の返事をしてしまうが、如何せん自分だけがフォルシアンヴァラヌスを知らない…。足手まといにならないだろうか?
「他にメンバーを集めなきゃならないと思うけど・・・どうしましょうか?」
「ニコールも戦えるから 私達3人も居れば討伐出来るわ」
「え・・・この子も戦うの?」
お互いの実力も分からないのだがアイリーンお姉ちゃんは楽天的な様子だ。ベアトリスさんが子供の自分も戦うのかと少し驚いている。よくよく考えなくても当然の反応だがアイリーンお姉ちゃんはお構いなしだ。
「大丈夫よ ニコールは立派に魔法だって使えるし サポートに徹して貰えば安全に戦えるわ」
「だ、大丈夫かな?」
「心配いらないわ メガラクネだって2人で倒したんだから」
メガラクネを倒したと聞いてベアトリスさんが感心した顔をする。あの時はビックリした気持ちが勝っていたけど、1mもある蜘蛛を倒せたのだからトカゲなんて楽に倒せるだろう。
お互いの連絡先を交換して明日改めて会う約束をする。魔道具の元となる武器が完成するのに5日程掛かるので、その間に互いの実力や連携なんかを知る為に簡単な依頼を冒険者ギルドで探す約束をする。
「え・・・? 貴方達レザムルーズの宿に泊まっているの?」
「ええ 今日この町に着いたばかりだけど・・・何か問題でもあるのかしら?」
「いえ・・・問題は無いけれど・・・ そ、そう言うアレじゃないわよね?」
「アレって何?」
「い、良いのよ 別に何も無いのなら」
そう言って歯切れの悪い返答をするベアトリスさん。何かあるのだろうか?自分達の泊まる宿に変な事でもあるのか少し心配になる。
「それじゃ 明日の昼には冒険者ギルドで落ち合いましょう」
「今日はありがとうございます ベアトリスさん」
「気にしないで またねニコール君 アイリーンさん」
石窯亭でベアトリスさんと別れアイリーンお姉ちゃんと宿に戻るが、先程のベアトリスさんの台詞が気になる…。アイリーンお姉ちゃんは差して気にしていない様子だ。
夕食を終え自分達と同じ様な人達が暗くなった通りを歩いている。
自分達の泊まる宿に着くとアイリーンお姉ちゃんは早速ラフな格好になり寛ぐ。戦う姿や勇ましいアイリーンお姉ちゃんはキリッとしていて格好良いが、少しだらしない姿もそれはそれで可愛い。
「あー 久しぶりに美味しい物が食べれて幸せだわ」
「チーズが蕩けて美味しかったね」
「そうねー 旅をしていると色々な料理に出会えて楽しいけれど 疲れちゃうわね それでもニコールのお陰で楽だけど」
アイリーンお姉ちゃんが上機嫌に頭を撫でてくれる。
「さぁ 体を拭いたら早めに寝ちゃいましょうか」
安宿だからかこれが普通なのか分からないがお風呂は無い。代わりに簡単にカーテンで仕切られた場所に少し大きめの桶が置かれているだけだ。そこに魔法でお湯を張り体を軽く清める。
「ゆっくり出来る部屋も良いけど 体を洗うならニコールが作ったお風呂の方が良いわね」
そう言いながらまたあられもない姿でこちら側に来てしまう。部屋に備え付けのバスローブみたいな物に身を包んでいるが胸元や足が見えていて妙に色っぽい。
いつもの様に魔法の熱風で髪を乾かすのを手伝う。自分も桶で体を洗うとベッドに入り寝る事にする。自分もバスローブを着てみるがサイズが違いすぎる…バスローブを着ると言うよりもバスローブに着られている感じになってしまった。
「灯り消すわよー」
「アイリーンお姉ちゃん おやすみ」
「はい おやすみ」
アイリーンお姉ちゃんと一つのベッドで眠りに就き、ウトウトし始めた頃。
ガチャンッ・・・バタンッ・・
暫くすると今頃になって宿を取ったのだろうか?隣室から物音が聞こえだした。
パタパタパタ・・
「ん・・・ダメ・・・ちゃんとベッドに行きましょう♥・・・あ、ダメよ・・・」
隣の部屋から物音が聞こえ、男女の声がすると思ったら怪しげで艶めかしい声が聞こえ始めた。
「汚れちゃうから脱がせて・・・あん♥・・・んっ♥・・・」
突然ギシギシと家具が軋む音と男の荒い息遣いと女の艶めかしい声。壁が薄いせいで細かな音は聞こえないがギシギシと言う音と男女の息遣いが聞こえて来る。
いつもの様に抱き枕みたくアイリーンお姉ちゃんに羽交い絞めにされながら寝ていたが、隣室からの音でアイリーンお姉ちゃんがビクッと体を一度震わせてピクリとも動かなくなる。
「お、お姉ちゃん・・・」
「ニ、ニコールは聞いちゃ駄目よ!」
アイリーンお姉ちゃんに耳を塞がれて気まずい沈黙が部屋を支配する。身動きできない状態の中で、自分の心臓の音だけがいやにはっきり聞こえる。
…どれ位経っただろうか?アイリーンお姉ちゃんの息遣いが寝息に変わった頃、ようやく隣室からの音も止まり眠りに就く事が出来た。
「不幸体質は異世界行っても治らない」 Bertie_Watson @akiduki
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