第41話


「子供連れかい? お荷物付きは要らないよ」

「この子は魔法が使えるわ」

「そうなのかい? でもウチのパーティーには間に合ってるから 他をあたってくれよ」


 2組のパーティーに話しかけたがどちらも断られてしまった。


「やっぱり僕が居るから駄目なのかな?」

「うーん タイミングかしら」


 フォルシアンヴァラヌスを討伐するようなパーティーはそこそこ腕の立つメンバーが揃っているから今更新しいメンツを用意する意味が余り無いみたいだ。


「せめて腕の立つ人が後1人か2人居ればカバーし合えて安全なのだけど・・・こうなったらまたエクルンドの時みたいにニコールを誰かと戦わせようかしら」

「・・・アイリーンお姉ちゃん?」

「・・・冗談よ 取り敢えず先に魔道具屋を見に行きましょうか」


 このまま別のパーティーを探していても今は見つかりそうもないし、別の目ぼしい依頼も無いので冒険者ギルドに来る最中に話していたメガラクネの素材を魔道具化してもらいに魔道具屋へ行く事にした。


 エクルンドの町程大きくは無いが道案内の看板等も無いし仕方が無いのでブラブラと歩いて探す事に。


「あっ! ニコールあったわよ!」

「? 魔道具屋あったの?」


 アイリーンお姉ちゃんが言う方を見てみるとそこには”石窯亭”と書かれた看板が…。


「石窯亭・・・? アイリーンお姉ちゃん?」

「ここの料理が気になってたのよね~ 夜になったらここへ食べに行きましょうか」


 エクルンドでフォルシアンの美味しい料理が出る店を調べといたのよ、と自慢げに胸を反らしている。どうやら旅の途中で立ち寄る村や町の名物料理をエクルンドの町で調べたらしい。旅をしていて町や村に寄ると、どうしても食事を外食に頼りがちになる。どうせ食べるなら美味しい物が食べたいから良いんだけどね。


 飲食店を抜け武器屋や防具屋が建ち並ぶ場所でようやく目的の場所を見つけた。


「あったよ お姉ちゃん」

「ニコール 先に釘を刺しておくけど 余り高い買い物になる様なら駄目だからね」

「えー」

「えーじゃないわよ 手持ちの現金はただでさえ少ないのに依頼もこなしてない状況で魔道具なんて高い買い物出来ないわ」


 確かに旅をする上で無駄な出費は押さえたい所。でも、メガラクネの素材で出来た魔道具ならアイリーンお姉ちゃんの戦闘のサポートにきっとなってくれると思うんだけど。


「ダメ?」

「駄目よ」


 ズイッと顔を寄せて来て駄目だと念を押されてしまった。これはエクルンドでお世話になったジョンさんみたいな出資者が居ないと駄目かもしれない…。


 魔道具屋は工房と一体になっていて、店内に入ると手前側がお店になっており奥が工房になっていた。店の中には客が1人だけで、後は受付の女性と奥の工房に男性が居るだけだ。早速受付の女性に相談してみる事にした。


「すいません」

「いらっしゃい 何か入用ですか?」


 柔和な笑顔で答えてくれた女性はファラムンド族であろうか?初老とはいかないまでも小柄で少し皺のある温和な顔で対応してくれる。


「これの魔道具の元となるアイテムを作って欲しいんですけど・・・」


 そう言いながら鞄からメガラクネの素材を埋め込んだスティック状の棒を取り出し、魔力を流してシュルシュルと粘着性の糸を伸ばしてみせる。


「あらあら ちょっと待ってね アナター 可愛いお客さんから魔道具の依頼よー」


 夫婦で魔道具屋をやっているのだろうか?アナタと呼ばれた男性が奥の工房から店の受付に姿を現した。ヘルムホルツさん程厳つい顔はしていないがたっぷりの髭を蓄えた如何にも職人ですと言った風体の男だ。


 この職人の男の前でも同じ様にメガラクネの素材で出来たスティックに魔力を流して糸を伸ばして見せる。


「ほうほう 面白い物を持っておるな 触っても平気か?」

「大丈夫だよ あっ! 糸は凄いベタベタするんで気を付けて下さい」


 職人の男がなるほどと言いながらメガラクネの素材を埋め込んだスティック状の棒を見て、魔力を込めたり糸に触ったりして一通り確認する。


「ふむふむ 魔道具の元となるアイテムを作って欲しいとの事じゃが 具体的に何を作ったら良いのかのぅ」


 そう言えばどんな道具に埋め込むか決めていなかった。


「生憎この道具から別の道具に特性を転写するなんて事は出来んし こんな糸を出すなんて特性の転写もウチではやっとらんからのぅ」

「あっ だ、大丈夫です このスティックからメガラクネの素材と魔晶石を取り出して別の道具に埋め込んで貰えれば後はこっちでやるんで」

「ほぅ 素材と魔晶石を埋め込む・・・とな? なら他に魔道具にする伝手があると言う訳じゃな?」

「うん!」

「了解了解 してどんな道具をご所望かな?」

「う、うーん どうしよっかなぁ」

 

 特にこれといった物も用意していないし、具体的にこの道具が良いと決めてもいなかったので悩んでしまう。魔法使いが持ちそうな杖でも良いし、何だったらアイリーンお姉ちゃんに買って貰った自分のショートソードでも良いかな?と考えていると。


「良かったらこれで試してみたらどうかしら?」

「え?」


 自分達が入る前からいたお客さんが横から話しかけて来た。入った時はコートに身を包んでいて後姿だったから分からなかったが、特徴的な長い耳と浅黒い肌でどうやらジュディット族の女性の様だ。


「ごめんなさい 君が面白そうな物を持っていたから話を聞いてしまったわ」


 そう言いながら彼女が持っていた剣を差しだしてくる。


「このレイピアならもっと面白い魔道具になるんじゃないかしら?」

「え・・・でも・・良いんですか?」

「ええ 何だったら費用も払ってあげるわよ?」


 突然の申し出に困惑していると費用まで払ってくれると言ってくる。チラリとアイリーンお姉ちゃんを見て反応を伺ってみと。


「良いんじゃない? こっちとしてはお金が浮けばそれだけ旅が楽になるんだから でも全部払ってもらうのも気が引けるし半分持つわ」

「じゃあ お願いしても良いですか? えーっと・・・」

「ベアトリスよ」

「僕はニコールです ベアトリスさんありがとうございます」


 ベアトリスさんと軽く自己紹介して魔道具屋の主人にレイピアの魔道具化の見積もりをして貰う。


「1から作る訳でもないし こいつのメンテナンスと素材の埋め込みと装飾で・・・1週間は掛からんじゃろ 5日程経ったら受け取りに来てくれ」


 魔道具として特性を付与する前だからだろうか?どうやらそこまで高い買い物にならずに済んだ様だ。町中を歩き回ったのと魔道具屋であれこれ悩んでいたせいですっかり遅くなってしまった。

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