第40話
硬いパンと干し肉と野菜スープか野菜炒めのメニューに飽きた頃、ようやくフォルシアンに到着した。フォルシアンはエクルンド程大きな町では無いが、鉱山に関わる人達と内陸の交通の要で宿場町として発展してきた町である。
どうやら国境とかに検問を置いてある訳では無い様で、フォルシアンに着いた事でヴァルストレーム国からルドヴィーク王国に入ったらしい。主要な都市や町以外の入国はあっさりした物だ。
早速フォルシアンに着いた所で宿を探す事にした。
「宿を決めたら冒険者ギルドを見に行きましょうか」
「うん! でもエクルンドの冒険者ギルドみたいな事は無しだよ?」
「だ、大丈夫よ」
少し遠回りになるが安全なフェルスホール国へ向かう行商の護衛か何かの依頼を探したい所だ。一応、森と山を抜ける道になるがそのままルドヴィーク王国内を進むルートも存在している。こちらは時期も相まってアイリーンお姉ちゃんはお勧めしないと言っていたが…。
「ここの宿で良いかしらね?」
「良いんじゃない? 僕は良く分からないけど・・・」
町の馬屋にホリィと荷車を預け自分たちの宿を探す。何故か他の宿とは少し雰囲気が違うような…ちょっとした違和感を感じたが他の町や宿を余り見た事が無いので良く分からない。
宿に入って受付の男にアイリーンお姉ちゃんが部屋が空いてるか尋ねる。シングルベッドの部屋しかなく、特に食事のサービスもやっていない。前世で言うカプセルホテルやビジネスホテルと言った感じなのだろう。他の宿とは少し変に感じたのはそのせいだな。
「シングルしか無いのですが本当に宜しいので?」
「ええ 構わないわ」
受付の男がアイリーンお姉ちゃんとこちらを交互にチラチラみながら確認してくる。料金は前払いとの事で取り敢えず1日分の料金を払いチェックインする。
「お金もそんなに無いから安くて丁度良いし 別に問題ないでしょ?」
「う、うー 僕もう10歳だよ? もうちょっと気を使ってよ」
部屋に入り中を確認すると大き目のベッドが目に入る。2人で寝ても問題は無さそうだが一緒に寝るのはやっぱり恥ずかしい。
「何言ってるのよ ニコールは弟みたいなもんでしょ」
子供の見た目では反論しても駄々を捏ねている様にしか見えない。そう言えばアイリーンお姉ちゃんって何歳なんだろう。10歳も年は離れてはいないと思うけど…。
荷物を貴重品入れに仕舞って冒険者ギルドへ向かう時、道中で手に入れたメガラクネの素材を思い出す。
「冒険者ギルドを見たら 魔道具屋か鍛冶屋に行っても良い?」
「良いけど 何か欲しい物でもあるの?」
「これの魔道具を作って貰おうと思って」
そう言うとエクルンドで新調して貰った肩掛けタイプの鞄からドラムスティック状の棒を取り出す。
「それね・・・エクルンドの時みたいになるから誰かに渡したりしちゃ駄目だからね」
「うん!」
エクルンドでは大量生産してばら撒こうとしたのが不味かったのだ。個人で使う分には良いだろう。あの時みたいに4つ足じゃ無いし…。
そうこうしている内にフォルシアンの冒険者ギルドの建物に着く。エクルンド程大きくは無いが何やら人だかりが出来ている。
「ドラゴンモドキが大量に目撃されてる! 積極的に討伐してくれればギルドから報酬を支払う! 詳しくは掲示板か受付で聞いてくれ このまま増え続ければすぐに問題になる 冒険者諸君に期待する!」
冒険者ギルドの職員だろうか?大声で冒険者を募っている。
「ドラゴンだって! 大量ってここに居たら危ないんじゃないの?」
「ドラゴンモドキよ フォルシアンヴァラヌスって言うトカゲをここら辺ではドラゴンモドキなんて言うのよ」
「トカゲなんだ・・・びっくりした」
「ドラゴンなんかと比べたらひ弱だけど 吐いて来る溶解液に触れると酷い目に遭うからかなり危険な魔物よ」
英雄譚なんかで出てくれば災害級の被害を出すと書かれる魔物を想像して驚くが、トカゲと聞くと何だか拍子抜けしてしまう。
少し混雑している冒険者ギルドに入り、目ぼしい依頼がないか確認する。
「やっぱり都合よく護衛の依頼とかは無いわね・・・」
フォルシアンは街道の中継地点として補給や宿に良く利用されるが、ここまで来るのに護衛も無しに来る行商は稀である。採石や鉱物の輸出でフォルシアンからエクルンドやフェルスホール国のデュクロへ輸送があるが、そう言った運搬には固定の護衛が居たりして冒険者への依頼としては全く無いそうだ。
「僕達もドラゴンモドキの討伐に参加した方が良いかな?」
「うーん ニコールは冒険者じゃ無いから本来戦わせちゃ駄目なのよね・・・かと言って次の旅の準備にお金が掛かるし ここでの宿代や食事代もあるし・・・」
ここまで散々魔物や野生動物と戦って来たのに今更な様な…。
「ギルドからの依頼で報酬が良いんじゃないの? 短時間で稼ぐには丁度良いと思うけど」
「そうなんだけど・・・安全の為に別のパーティーに混ぜて貰おうかしら」
珍しく弱気なアイリーンお姉ちゃんだ。そんなに危険なトカゲなんだろうか…。
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