第39話
2日目の朝の件以来旅は順調で4日目の夜になった。明日の夕方までにはフォルシアンに着けそうだとアイリーンお姉ちゃんが言っていた。
「旅の途中でお風呂に入れるなんて贅沢ね」
初日は濡らした布で体を拭くだけだったが2日置きにこうしてお風呂でさっぱりする事にしている。後1日でフォルシアンに着くから我慢しても良いけど魔法で水が手に入るから少し位の贅沢は許されるだろう。
湯冷めしない様にアイリーンお姉ちゃんの髪を魔法で乾かしているが、この人はまた薄着で無防備な格好をしている。
「お姉ちゃん風邪引くよ?」
「大丈夫よ 私は鍛えてるから」
言葉通りアイリーンお姉ちゃんの体はナチュラルな筋肉で鍛え上げられている。でも、体を鍛えたからって風邪を引かない訳じゃ無いと思うんだけど…。
そう言えばアイリーンお姉ちゃんは何故1人で冒険者をやっているのだろうか?綺麗だし強いしエクルンドの冒険者ギルドでチェストプレートの男改めジュレマイア達に誘われた様に別のパーティーから誘われる事もあっただろうに…。
「アイリーンお姉ちゃんはどうして1人で冒険者をしてたの?」
「ん それは・・・ そうね・・・また今度教えてあげるわ」
アイリーンお姉ちゃんは微笑みながらはぐらかして教えてはくれなかった。少し可笑しそうに笑っているから大層な理由も無いのかもしれない。アイリーンお姉ちゃんの髪を乾かし終わったので2日目の朝に手に入れたメガラクネの素材を調べる事にした。
「ニコール また変な物を作ってるんじゃないでしょうね」
「ち、違うよ」
メガラクネの素材と魔晶石を組み合わせてあの粘着性の糸が出せないか試している所にアイリーンお姉ちゃんが心配顔で覗き込んで来る。
「蜘蛛みたいにカサカサ動き回る様な物を作るんじゃないかって心配よ」
「そんな物僕だって嫌だよ・・・」
ドラムスティック状の木を削り出して試しに埋め込んで魔力を注いでみる。すると先端からニュルニュルと糸が出てきた。
「アイリーンお姉ちゃん やったよ! 上手く出来たみたい」
「何だか気持ち悪いわね・・・」
出て来た糸を摘まんでみる。引っ張ったりしても切れないし中々丈夫そうだ。しかし、手を離そうとすると凄いべた付く事に気が付いた。
「うわぁ・・・凄いベトベトしてる・・・」
「何やってるの・・・ちゃんと手を洗いなさいよ」
アイリーンお姉ちゃんは余り魔物の素材の特性に興味は無い様だ。理科の実験の様で面白いのに…。
「アイリーンお姉ちゃんは魔法とか魔道具って使えるの?」
「私? 私はニコールの様に魔法は使えないわ 魔道具なら使う事が出来るけど 余り魔力を必要としない物に限るわね」
「そうなんだ」
「魔法じゃないけど 錬気ってのを使えるわよ」
「え? れんき?」
アイリーンお姉ちゃんが得意げにふふんと鼻を鳴らして説明してくれる。
「エクルンドの冒険者ギルドでチェストプレートの男が居たじゃない あいつがニコールの魔法を打ち消した時のあれが錬気よ」
エクルンドの町でアイリーンお姉ちゃんに嗾けられて戦ったジュレマイアの事を思い出す。戦いの中で放ったエアストプッシュを気合いの掛け声と共に掻き消してしまったあれが錬気だったのだと言う。他にも筋力・心肺機能・動体視力等の強化や熟練の人が使う特殊な技があるらしい。
「アイリーンお姉ちゃん凄いね!」
「ふふん! もっと褒めても良いのよ」
胸を反らせて自慢げなアイリーンお姉ちゃんが何だか可愛い。気を良くしたのかアイリーンお姉ちゃんが先程作ったメガラクネの道具を持ち上げる。
「アイリーンお姉ちゃん 魔力を注いでみて」
「うっ・・・やっぱり少し気持ち悪いわね」
アイリーンお姉ちゃんが魔力を込めるとシュルシュルとスティック状の棒から糸が伸びていく。
「まるで鞭の様ね」
「鞭かー 僕は何だか釣り竿みたいに見えるよ」
「で? これは何に使うの?」
「うーん・・・ もう少し調べてみないと使用用途は何とも言えないね」
せっかくの魔物の道具だ。メガラクネがやっていたみたいに白い球状の粘液を飛ばして相手の動きを阻害したり、糸で拘束するのがいいかな?鞭にするのも釣り竿っぽくしてみるのも面白そう。
エクルンドで冷蔵庫を作った時みたいにもっと良い道具と組み合わせる事で性能を引き出せるかもしれない。フォルシアンに着いたら鍛冶師か道具屋を見に行ってみよう。良い物が作れるかもしれない。
フォルシアンに着いた時を楽しみにして今日は眠りに就いた。
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