第38話


 旅を再開して2日目の朝…。


 寒さで目が覚めると一つ伸びをして体を解す。グレゴリー家のベッドで馴れてしまって体が痛い。せめてスプリングが効いたマットレスなんかがあれば…。


「ふわぁー・・・」

「おはよう ニコール」

「あ・・・ お、おはよう アイリーンお姉ちゃん」


 アイリーンお姉ちゃんが既に起きていて挨拶してくるが、寝起きの姿にドキッとしてしまう。隙だらけな姿に変な感じに意識が覚醒してしまった…。こっちも年頃の男子なのだから気を使って欲しい。


 桶に水を溜めて顔を洗い改めてシャキッとする。


(よしっ!)


 昨日の野菜スープを温め直して朝食にする。硬いパンをスープに漬けながら流し込んでいくが、何故か久しぶりに米が食べたいと思ってしまった…。前世では1人暮らしをするようになって朝ご飯は食べないし、自炊も全然しないから気にして無かったけどこの世界の楽しみが少なすぎて食への関心が増したような気がする。


(エクルンドで食べたリアさんが作ったカレーがまた食べたいな・・・)


 朝食を終え、片づけながら荷物を整理して荷車に乗せるべく外に出ようとすると入口でアイリーンお姉ちゃんが外の様子を伺っていた。


「アイリーンお姉ちゃん何やってるの?」

「・・・ちょっとニコールも見てみなさい」


 アイリーンお姉ちゃんに促されるままに入口の布を捲ってみる。すると野営地の近くに音も無く森からスルスルと近づいて来るデカい蜘蛛みたいな奴がここから確認出来た…。1mはあろうかと言う程の巨体で、細かな体毛に覆われたずんぐりとした体をカサカサと動かす姿は嫌悪感を与えて来る。


「メガラクネって奴ね・・・」

「キモッ!・・・アイリーンお姉ちゃんどうするの?」

「私は無理よ ニコールが何とかしなさいよ」

「えぇ! 僕も無理だよ・・・」


 基本的に近接戦闘のアイリーンお姉ちゃんは虫とか昆虫系は駄目なのだと言う。あんなにデカかったら誰でも駄目だと思うんだけど…。


「南方のメガラクネはもっと大きいって聞くし 中々素早い動きをするらしいから気を付けてね」


 アイリーンお姉ちゃんが聞いても無い情報まで喋っている。…完全に部屋の中から見守る気なのだろうか?魔法は確かに便利だけど万能と言う訳でもない。自分が扱える魔法は精々5mから10mの範囲内でしか効果を発揮できない。槍を生成してカウンターを取るのも5m位が限界だ。


「グァ!グァ!」


 部屋の入り口で手を拱いているとグァーガ鳥のホリィがメガラクネに気が付いたのか警戒して焦った様な鳴き声で騒ぎ出した。


「あ・・・不味い!」


 慌ててアイリーンお姉ちゃんと部屋から飛び出すがホリィも飛び出してきてしまった。ホリィはメガラクネを確認すると翼を広げて徐に突進していく。


「グァアア!」

 

 メガラクネは立ち上がる様な?威嚇のポーズをしたかと思うとホリィに向けて何か白い球の様な物を吐き出した。


「グェッ!!」


 それはベチャリとホリィの足に当たり、勢い余って転倒させられてしまった。メガラクネは転倒したホリィを中心にグルグルと回り始める。ホリィに当たった白い球はまるで鳥黐の様に動きを鈍らせていると思っていたら、グルグルと回るメガラクネは糸を出して更にホリィの体を縛り上げて行った。


「グェェエ・・・」

「させないわ!!」


 完全に身動きが出来なくなったホリィに近付こうとしたメガラクネにアイリーンお姉ちゃんが切り付ける。動きを察知したのか大きく飛び退きアイリーンお姉ちゃんの斬撃を躱したメガラクネは再び威嚇のポーズを取ると白い球を2つ飛ばしてくる。


「ハッ!」

「う、うわぁあ!」


 アイリーンお姉ちゃんは華麗に躱したがこっちは壁を生成しなかったらホリィの二の舞になる所だった。


 生成した壁に当たったのを獲物に当たったのと勘違いしたのかメガラクネはカサカサと足を動かし猛然とこちらに迫って来た。


「き、キモい!」


 動かない壁に向かって飛び付いて来た所に生成した槍を食らわせてやる。


ドシュッ!


 何かが破れる様な嫌な音を立ててまるで虫の標本みたいにメガラクネは串刺しになってもがいている。


「ヤァアッ!」


 アイリーンお姉ちゃんの一撃でモゾモゾと踠く体を真っ二つにしてメガラクネを倒す事が出来た。


「やったぁ!」

「危なかったわね」

「早くホリィを助けてあげなくちゃ」


 グルグル巻きにされてしまったホリィを助け出したが、粘着性の糸を剥がすのに少し羽が毟れてしまってホリィはしょんぼりしていた。足回りが寂しい事になってしまったが怪我は無い様で一安心だ。


 野営地を片づけて荷車に荷物を乗せ、ようやく慌ただしい朝の一幕を終え旅を再開するのだった。

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