第37話
「済まないね フェルスホール国へ一緒に行けなくなっちゃったけど 2人共頑張ってね」
エクルンドの町長ことカンデ・トルレスさんに冷蔵庫に関連した素材をヴァルストレーム国外に持ち出すのを禁止されてしまいジョンさんとフェルスホール国へ行く事は出来なくなってしまった。更にトルレスさんの要請でグレゴリー商会が首都レコへ研究の為に冷蔵庫をいくつか持って行く事になり、その役目をジョンさんが担う事になった。
「ジョンさんも気を付けて」
ジョンさんが操る馬車にエクルンドの町の衛兵を数名護衛として乗せ、真北にある首都レコへと出発していった。
「私達も行きましょうか」
「うん!」
結局都合の良い依頼は見つけられず仕方ないので5日分の食糧を積んでアイリーンお姉ちゃんと2人だけでフォルシアンを目指す事になった。
検問所を今度は何事も無く通過出来て一安心だ。しかし、忘れていたがジョンさんに取り付けて貰った新しい冷蔵庫がちゃっかり荷車に取り付けたままになってるが良かったのだろうか…。
寒空だが良く晴れていてグァーガ鳥のホリィも調子が良さそう。エクルンドに別れを告げて街道を進むとすぐさま森に囲まれる。
鬱蒼とした森の中とは言え寒い時期のせいか生き物の気配は少ない。たまに見かける街道脇に居る鹿もこちらを確認すると何処かへ逃げていく。鹿と言っても奈良公園に居る様な鹿では無く、妙にデカい奴ばかりだ。
「あんなに大きい鹿に襲われたらひとたまりも無いね」
「そうね 草食だから滅多にこちらを襲う事は無いと思うけど 魔物化して魔獣になった牡鹿はギルドや国が強い冒険者か衛兵を集めて部隊を作って討伐しなければいけない程だと聞くわ」
「そうなんだ・・・」
「最近は魔物の数が増えたのか活発になってると聞くし用心に越した事は無いわね」
アイリーンお姉ちゃんが魔物や野生動物の被害が最近増えていると教えてくれる。ダンヴァーズ領の開拓村で起きた事件を思い出す…あの後、村は無事に持ち直したのだろうか…。
「雲行きが怪しくなってきたわね・・・」
簡単に昼食を済ませ一路フォルシアンへ向けて荷車を進めていると次第に空が曇りだし出発した時の快晴が嘘の様に影を落とす。ホリィもまだまだ疲れていないし、出来るだけフォルシアンへの距離も稼ぎたい。ホリィの引く荷車を急がせながら雨が降り出すまでと決めて旅を進めた。
「アイリーンお姉ちゃん降って来ちゃったよ」
周りは森に囲まれているし、時期的に日没も早い。日が傾き西に沈む太陽がオレンジ色を帯びだす頃、ポツリポツリと雨が降り出してしまった。
「そうね 暗くなって来たし無理して進めなくても良いでしょ 丁度開けた場所もあるし本格的に降る前に野営の準備をしましょうか」
久しぶりの野営が雨とは運が無い。日が傾き雨が疎らに降り始めた頃にホリィの荷車を止め、野営の準備を始める。
車庫の様な壁を魔法で生成してホリィと荷車をそこに入れる。横に同じ様な建物を生成して野営地とする。ドアは作れないので雨と外気が入りにくい様に入口に布を被せ簡単に塞いでおく。エクルンドに着く前の野営地より少しだけ良い物が作れた様な気がする。あんまり大差は無い気もするけど、雨と外気に晒されなければそれで良いのだ。
「ニコールの魔法は本当に便利ねー」
野営地を作るのに少し濡れてしまった体を乾かし、アイリーンお姉ちゃんの体も乾かしている時しみじみと言ってくる。御者台に乗っていた時のコートを脱ぎ装備を外してラフな格好になっている。相変わらずの引き締まった体がチラチラと視界に入ってしまう。
「アイリーンお姉ちゃんラフな格好すぎるよ」
「そう? 私は気にならないけど」
(こっちが気にしちゃうんだよ・・・)
余り目にすると毒なので体を乾かして一息ついたら少し早いが今夜の食事と明日の朝食用に野菜スープを作る事にした。野菜スープと硬いパン、干し肉の食事が5日間続くと考えるとエクルンドでの食事が恋しくなる。
荷車に積んでいた薪に魔法で火を点けるがこれがまた大変なのである。加減が難しいし下手に強くしたら大惨事になりそう…。開拓村に居たジミーではないが自分も炎の属性は苦手なのかもしれない。火打石で火を点けるのと変わらない位の火を何度も出して枝を燃やし大きい火種にしていく。木炭に点けば後は火を絶やさない様にすれば一晩は凌げる。
アイリーンお姉ちゃんと食事をしたら火の番をしながら早めに交代で寝る事になった。
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