第36話


「さぁ 町長の所へ行きますよ くれぐれも失礼の無い様に」


 刑罰が決まったのか牢屋から出されて応接間の様な部屋で衛兵に監視されながら待機していると尋問官が来て町長が居る部屋へと3人揃って案内される。衛兵に付き添われながら両開きのドアがある部屋で立ち止まる。部屋の前でコンコンとドアを叩き入室の挨拶をすると中から返事が来て何故か衛兵を部屋の前に待機させ尋問官に促されるまま町長の部屋へと入って行く。


「あんた達が例の魔物を町にばら撒こうとした奴等か・・・報告書は届いてるがまさかこんな子供が事件の首謀者だとはな」

「すいません でも・・・」


 悪気があった訳じゃ無いと言おうとすると片手を突き出して待てと言い言葉を遮って来る。町長が尋問官に目配せすると一礼して部屋を退室してしまった。衛兵も部屋の中に入れず、尋問官の男まで退室させ部屋には捕まった3人と町長の4人だけになってしまった。


 町長はアルトゥル族で特徴的な長い耳に髪は総髪にして眼鏡を掛けており眼光鋭い。一見、面長長髪のせいでひょろっとしてる様に見えるが武闘派なのだろうか?テーブルに肘をついて手を組み顎を乗せ居てる。まるで何処かの指令の様なポーズをしてどっしりと構えている。


「さて 報告書で大体の事情は把握しているが町の有力者に化け物を売りつけ更にヘルムホルツ工房で量産して町に留まらず国外に持ち出そうとした様だな・・・罪状は極めて危険な行為であり 情状酌量の余地無しとした場合極刑もありうるな」

「きょ、極刑!?」


 町長が報告書をペラペラ捲りながら事も無げに言い放つ。この世界の、更にこの国の法律がどんな内容なのか把握していないがジョンさんの反応を見る限り死刑もあるかもしれない…。


「横暴だわ! 私達にそれ程の罪があるとは思えないわ!」

「そうかね? 実際私の孫が怪我をしているし明らかに魔道具では無い化け物を売りつけ 剰えこの町に留まらず世界中にばら撒こうとしていたじゃないか」

「そ、それはそうですけど・・・」


 どうなってしまうのか不安になりオロオロしていると不意に町長が笑い出した。


「ハッハッハ すいませんね揶揄ったりして」

「え!? 揶揄ってた・・・?」

「いえ・・・これからの貴方達次第で冗談じゃなくなるかもしれませんが・・・」


 町長は笑顔から急に鋭い視線になりこちらを伺ってくる。固唾を飲んで見守っていると部屋の左にある来客用のソファーとテーブルへ座る様に指示してくる。ジョンさんとアイリーンお姉ちゃんに挟まれる形でソファーに座り、対面の町長と対峙する。


「揶揄ったと言う表現は語弊がありますが1つ我々と取引しませんか?」

「我々・・・?」

「取引・・・?」


 アイリーンお姉ちゃんとジョンさんがそれぞれ疑問に思った町長の言葉を繰り返す。


「我々とはこのエクルンド 牽いてはヴァルストレーム国の事だと思って下さい・・・取引と言うのはジョン・グレゴリーさんが交わした契約や進めようとしていた冷蔵庫なる物の取り決めを我々に全て譲って頂きたい」

「な、何だと! そんな事認める訳にはいかないぞ!」


 ジョンさんが契約や販売権限の全てを寄越せと言われて立ち上がる勢いで抗議する。我々の意味を町や国と考えてくれと言われてジョンさんは少し動揺しているみたいだが、町長は至って冷静と言った感じで落ち着き払っている。


「嫌だと言うのなら・・・」

「何だって言うんだよ」

「・・・残念ですが魔物を町に放った罪で極刑にするしかないですね」

「なっ!」

「そんな・・・」

「何が取引だよ! こんなの唯の脅しじゃないか!」


 罪を軽くする代わりにリヴィングツリーの素材で出来た魔道具だか魔物だか良く分からない物に関する権利を寄越せと言う話だったが、こちらに考える余地は無いみたいだ。


「悪い話だけじゃないですよ 罪に問わないだけじゃ無く冷蔵庫の研究に資金を出しますし もしまた販売や製造が決まればグレゴリー商会やヘルムホルツ工房に依頼しましょう 資金や人が要るならこちらから手配しますし」


 ジョンさんと交わした契約を町長が引き継いで冷蔵庫の研究をするらしい。魔物と断罪して処分するのでは無く、どういった物なのか調べて利用出来そうならジョンさんと同じ様に販売なりする様だ。何やら書類を取り出しジョンさんに見せる。興奮気味のジョンさんだったが書類を熱心に見ている内に冷静になったのか黙ってしまう。


「それでは次はアーヴィング君ですね」

「え? ぼ、僕・・・?」

「アーヴィング君とコーネリアスさんに関する内情もちゃんと聞いていますよ」


 町長さんがグイッと眼鏡の位置を直し笑顔を見せる。顔は笑っているが目は笑っていないような気がするし、まるでインテリなヤ○ザみたいで何だか怖い。


「君達の旅路を邪魔するつもりはありません しかし ジョン・グレゴリーさんと交わした契約通りグレゴリー商会を通じてリヴィングツリーの素材を送りますので定期的に魔力を流して送り返して下さい」

「わ、分かりました」


 一体何を言われるかと思ったが特にそれ以外は何も言われず、最後にジョンさんと交わした契約を町長に引き継ぐ旨の契約書にサインをしてグレゴリーさんの家に帰れる事になった。町長さんが部屋の中から合図をすると部屋の前で待機していたであろう衛兵に連れられて屋敷の中からようやく外に出る事が出来た。


「どうなるかと思ったね」

「そうね 悪い方向に行かなくて良かったわ」

「ジョンさんごめんなさい 僕のせいでこんな事になっちゃって・・・」


 町長さんから渡された契約書のコピーを熱心に見ているジョンさんに今回の事を謝る。せっかくジョンさんが苦心して準備していたのに町長さんに丸々取られてしまう結果になったからさぞ悔しがっていると思ったが…。


「うーん 結果的に主導権は取られちゃったけど考え方によっては国の公共事業の下請けになれたって考え方も出来るから・・・結果オーライかもね?」


 落ち込んでいると思ったがそうでもなかった。寧ろポジティブに捉えている様子だった。


「工房に行ってヘルムホルツさんに謝っとかないと後でどうなるか分からないから ごめんけどニコール君達も一緒に来てくれないかい?」

「構わないわ」

「うん 僕も謝りに行きます」


 ヘルムホルツ工房に行ってたっぷり説教されて長い一日が終わる。ようやく旅を再開出来そうだ…。

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