私たちはなぜ、レトロモダンな「帝都」東京という舞台設定に、これほどに心惹かれるのだろうか?
おそらくその理由の一つは、今日の東京の都市空間が、あまりにも明るく、そして平板なものであるという点にあるのではないか。ビルの陰に、路地裏に、人知らぬ「闇」を抱え、光化学スモッグならぬ「瘴気」に覆われた帝都を舞台に、本作は物語られる。
何しろ、本編の冒頭からして「平正一四七年」と来た。この書き出しに始まる数行だけで、本作の世界観が余すところなく伝わってくる。余計な設定語りは要らない。作者の力量である。
物語は、「鬼斬り」の異能を持つ主人公・吹雪が、化物討伐集団「紅梅社中」に属し、帝都を脅かす化物に挑みながら、失踪した兄の謎に迫る、というもの。それぞれ一癖も二癖もある社中の仲間たちがすこぶる魅力的で、特に、剛腕無双の鬼武者・時久と吹雪の凸凹コンビのやり取りは秀逸。バトルシーンにも迫力とスピード感が溢れている。
犬神遣いの少女の因縁をめぐって展開される第参話などは、もう脱帽するしかない出来栄えで、ぜひ多くの読者に読んでほしい。
内容充実、キャラも魅力的。非常にビジュアル映えする作品であり、少なくとも私は、本作が美麗イラストの表紙を纏って書店に並んでいても決して驚かない。
本作は、戦前の日本をモチーフにした剣劇伝記アクションとも呼べる作品です。舞台は主都である帝都。お話の主軸は、異能を持つ主人公吹雪が仲間と共に化け物退治をするというもの。
戦前の日本をモチーフとした伝記ものは人気があり、刀で化物を斬り殺す少女という主人公のモチーフもオーソドックスなものです。
初めはどこかで見たことがあるような話だという感覚で本作を読んでいました。下手ではないけれど、新鮮味は感じられないといった感じで。
ですが、このお話は回を増すごとに味が増していきます。主人公吹雪の周囲にいる退治屋『紅梅社中』の社員たちが一筋縄ではいかない人間ばかりです。
最新話だと、その仲間の異能のせいで主人公がピンチになるという急展開を見せています。この仲間たちとの関わりが、人の顔色を知らず知らずのうちに窺っていた吹雪にも変化をもたらします。
吹雪が探している双子の兄も何やら一筋縄でゃ行かない人物らしく、吹雪の波乱に満ちた『これから』の展開に期待が持てるお話です。
設定やモチーフ自体はありふれたものですが、丁寧な話の構成と魅力的な脇役たちがこのお話に彩を添えてくれます。
読めば読むほど味が出る。それが、このお話の『強み』だと思いました。