スイカ
オカノヒカル
スイカ
もちろんこれは御伽噺です。
ある処に、スイカの大好きなお姫様がいました。
彼女は毎月、自分と同じ名前の少女を城に呼び、自分と同じようなドレスを着せ、自分の大好物のスイカをごちそうしました。
その日、一人の少女だけはそのスイカを食べようとはしません。
どうしたのかとお姫様は声をかけます。
「なぜ食べないのじゃ?」
彼女のせっかくのごちそうを拒絶するなど、臣民にあるまじき行為。侍女たちはやきもきしながら少女の様子を見守っています。
「わたしは人として生きたいから」
少女の言葉を聞いたお姫様は、片ほうの口を吊り上げて奇妙な笑みを浮かべます。
「ならば問う。そなたの名はなんと申す」
「私の名は……」
少女には言えるはずがありません。
昔、この国ではその名に肖りたいと、姫の生まれた年に、姫と同じ名をつける女児が多かったといいます。
ところが、神経質な王は姫の名を騙って国を乗っ取られるのではないかと考え、城内で姫と同じ名を名乗ることを許しませんでした。
名乗れば不敬罪にされ、極刑となります。
「なんと申すのじゃ」
姫様の強い口調が城内に響き渡ります。
そして、この国にはもう一つ厳しい法律がありました。
『誰何(すいか)せる門衛に、口を閉ざし者は、間諜とみなし極刑となす』
簡単に言えば、城内において身分を証明できないものは、敵国のスパイと看做され処刑されるということです。
つまりお姫様から名を問われたが最後、答えようが答えまいが残酷な結末にしかなりえないのです。
お姫様と、同じ名前の少女は当初百人近くもおりました。
ところが毎月行われる姫様とのお近づきのパーティーで、その数はどんどん減っていきつつあります。
ある者は間諜と看做され処刑、またある者は不敬罪として処刑され、そしてある者は精神に異常をきたし、その場で処分されました。
この残酷な運命の少女たちを『スイカ』と呼んだのはお姫様が最初です。
もちろんこの国に、西瓜という果実のような野菜は存在しません。
ちなみに、初めて出されたごちそうは『スイカ』という名前ではありませんでした。
了
スイカ オカノヒカル @lighthill
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