第12話

「んーっ……よし!」


 異世界四日目。

 今日は早めの六時台に起きた。別になんとなく目が覚めたわけじゃない。

 この世界にもアラームはあるけど、それだとシルファを起こしかねないから使えない。

 だから色々試した。

 正直、この世界は魔力で何でもできてしまうようで、毎朝置いてる固形魔力同様に時間設定のようなことも出来てしまう。まあ、女神様から貰った『力』の恩恵でもあると思うけど。

 だから、何時間後という形で設定した球体の魔力玉を耳に詰めて、時間が来たら小さな音を立てて弾けるようにイメージしたそれのお陰で時間通り目が覚めた。


 そしてこれ、、を握りしめて、シルファを起こさないように固形魔力を残して、ゆっくり布団から出てベランダへと向かう。




* * * *




「あー暇だなぁーユウマくんから早く連絡こないかなー」


 携帯ゲーム機の電源を入れ、モニターには気に入りのアニメを流す。

 これが普段の私生活。

 本来モニターには、ユウマくんが異世界で暮らす様子が映るところなんだけど、ユウマくんを送り出した時の私の神々し過ぎる女神パワーにいろいろやられてしまい、今は向こうの様子が映らない。

 かわいいかわいいユウマくんを異世界に送ってから三日が経った。

 今日はペンダントの通話機能が復活して、久しぶりにユウマくんと会話ができる。

 まだ教えてない事いっぱいあるけど、自分で調べる方が冒険者らしいんじゃないかと思うからあんまり教えない!


「あっ!」


 今やっているのは地球で人気の、BETAという携帯ゲーム機専用ソフト、「マジカルアニマル・マニアック」。

 そのハードステージをプレイしていたところ、ゲーム内で操作していたキャラが、サルのモンスターが投げたバナナの皮で足をすべらせ、後頭部を段差にぶつけて残り少ない体力を全部持っていかれてしまった。


「……ぷふっ」


 おおっといけない、思わず吹き出してしまった。

 でも仕方ない。死に方があまりにもユウマくんと似ていたから……ぷふふっ。

 それに、このキャラはユウマくんをベースに作ったものだし。


 女の子ともとれる可愛らしく優しい顔つきで、女の子でもいそうな黒髪ショートヘア。

 頼りなさそうな細めの体つきがまた男の子らしさを消し飛ばす。

 身長はユウマくんぐらいの年の女の子ではやや高めで、男の子ならやや低めくらいかな?

 見方を変えれば美少年だけど、その逆で男装をした美少女ともとれる。

 確かコンプレックスって言ってたっけ? 女神様、可愛いのはいい事だと思うよ?


 もう一度プレイするため、コンティニューしようとしたその時――


「んん? ややや? 連絡キタ━━━!!」


 胸元から眩い光が放たれ、「連絡が来たよ!」と言わんばかりに服の中で暴れまわる翡翠色(ひすいいろ)のペンダント。

 ユウマくんに渡した物と同じ……ではない。

 ユウマくんに間違えて渡したものは欠陥品で、三日に一回しか通信ができない。

 実は、今私がつけているペンダントこそユウマくんに渡そうとしていた物なの。

 今付けているのともう一つ完成品を持っていて、それ同士ならいつでも通信ができるんだけど、片一方が欠陥品だとそれはできないのよ……。


 まあそれはともかく、ようやくユウマくんと喋れる!

 ペンダントを握りしめて、喋った自分の声を直接相手の頭の中に飛ばす。


「ユウマくんおひさー!」

『どうも。三日ぶりですね女神様』

「うんうんそだね!」

「『……』」

「ユウマくんおひさー!」

『それはさっき聞きました』

「そ、そだね。あはは……」


 あれぇ。いざ話すとなるとなぜか言葉が出てこない。

 別に何でもいいんだよね? こういう時は。


「そっちの生活はどう? もう慣れた?」

『あ、はい。今のところ魔法があるか魔物がいるかの違いだけで、他は日本とほぼ変わらないんですぐ慣れました』

「そう、良かった――」


 それはそうだ。

 なんたって、あの世界は日本をベースに私が作ったんだもの!

 動機は単純。

 私達女神の間で話題となっていた地球。

 そこには、他の星とは違って進んだ技術の上で幸せそうに暮らす人々がいて、あらゆる娯楽文化に溢れた日本という国があった。

 私はその日本に目をつけて、アニメなどに触れ知識をつけた。

 そして日々退屈な私は、女神パワーを使ってアニメやマンガと同じように魔法なんかがある世界を作ったの!


 でも、ただ作って観察して終わり。ってのも退屈だーって事で、これもまたアニメなんかと同じで日本に住む人間を私が作った世界に送って、その送った人間がどのように生きるかを観察するほうがもっと面白いのでは!? という事で何人かそこへ送った。

 魔導師の素質がある人とはつまり、男の娘! そう男の娘!

 男の娘っていいよねー。そう思うようになったキッカケはこれもまたアニメだけど。

 とまあ、私が見てビビッときた男の娘が魔導師の素質があるということにして、かわいい男の娘が魔物達に勇敢に立ち向かう様を観察することこそが最大の娯楽!

 色々時間の流れとかこんがらがっちゃって、ユウマくんより前に送った人の中には、ユウマくんの時代より数百年も後の時代の人を送ったりもした。

 でも、その何人かが魔物との戦闘で命を落としたりして長くは続かない時もあった。もちろん、ユウマくん同様地球で死んでから本人の同意の上で送ってるからね!


 そしてユウマくんを見つけた時に今までで一番ビビビビビッときて、ペンダントの作成を始め、現状に至るわけよ。


『……女神様?』

「ああごめん。んで、何か話したいことでもあるの?」

『そりゃもういっぱいあります! まず魔法についてですが、最初女神様はイメージだけで使えるって言ってましたよね?』

「そんなこと言ったっけ?」

『言いました! 確かにイメージだけで自由に使えましたけど、この世界にはちゃんと魔法という世界に定着し、固まった概念があるじゃないですか! ちゃんと教えてくださいよ』

「あーごめんごめん。まあ実際イメージだけで何とかなるからね。魔法名を叫びながら魔法を使うのは一種のおまじないみたいなものよ」


 おまじない。

 魔法名を言うことによって正確に魔法が発現し、安定した魔法が出せるようになる。

 自分で作った魔法に名前を付けたり特別な動作を加えることで、それだけでもおまじないになる。

 とだけ一応伝えておいた。これくらいならいくらでも答えるさ!


『そうだ、タロウって何ですか?』

「ナニソレ?」

『どうやらお金の単位らしいのですが、何でタロウなんだろうって』

「ユウマくん、今のダジャレ? なかなか良かったよ」

『ち、違いますたまたまですから! ちゃんと答えてください!』


 んもう、ユウマくんったら。からかいがいがあるんだからっ!


「多分前に送った人の名前じゃないかな? お金の単位になるほどの功績を上げたからじゃない?」

『……やっぱり、僕より前に送った人がいたんですね』

「まあねー。別に隠してるつもりはなかったよ? いずれは分かることだし」


 ほんとほんと。これについては隠すつもりはありませんでした。


『その人達も世界を救うって目的の為に異世界へ?』

「まあそんな感じかなー。でも、今回の件は今までとは違うの」

『というと?』

「実はね――」


 これはどうしても伝えないといけないことだから、今から言おうとしたその時――


『ふあぁ。お兄ちゃん、もう起きてるんですか?』


……お兄、ちゃん?


『やばっ! とりあえず切りますね! また今度聞かせてください』

「ちょっと待ってお兄ちゃんってなに!?」

『それもまた今度。では!』

「え、ちょっと――」


――ブツン。


「うそーん……」


 焦らしプレイなんて……やるねユウマくん!




* * * *




「お、おはようシルファ。今日は早いね。あとユウマね」

「おはようございます。だっていつもみたいに置いていた魔力が消えたので、それで起きたんですよ。ごめんなさい」


 どうやら、女神様との通信をするという事に若干浮かれていたようで、そこまで気が回らず、間違えて十分設定で置いていたらしい。


「そっか、ごめんね起こしちゃって」

「それは大丈夫ですけど、今日は早起きですね」

「あーほら、今日は初めてまともな依頼を受けに行くだろ? ちょっと楽しみでね」

「それではしゃいで早起きですか。ふふっ、子供みたいですね」


 こ、子供……。

 まあ、あながち間違ってはない。

 そりゃはしゃぐさ。だって楽しみだもん! すっごくワクワクだもん!

 依頼だよ? クエストだよ? 表に出してないだけで、今にでも踊りだしそうなくらい楽しみでならない。


「じゃあちょっと早いけど支度しようか。完全に目が覚めちゃったし」


 もう目が覚めたしと、シルファに向き直り支度を促そうとしたが、後ろにシルファはいなかった。

 もう既に準備を始めているのかと、関心していたその時、誰もいないはずの布団が膨らんでいることに気づく。


「すぅ……」


 寝てるし!





「うぅ……お兄ちゃんの鬼ぃ。もう鬼行ちゃんです……」

「だらだらしてちゃダメだよシルファ。ユイハも待ってるかもしれないし」


 あの後、七時までシルファを寝かしたがそれでもまだ寝足りないらしい。

 僕はシルファが寝ている間に支度を済ませて、魔力で色々試したりして時間をつぶした。

 そして無理矢理シルファを起こし、運ばれてきた朝食を食べてから宿出た。

 しばらく歩いてギルドに着く。

 その扉を開くと待ち人が何かを手に持ち、元気よく挨拶して駆け寄って来る。


「あ、おはようししょー!」

「おはようユイハ。その紙はどうしたの?」

「これ見て!」


 ユイハが持っていたのは依頼書と思しき紙の束だった。ざっと十枚くらいか。


「依頼書?」

「そう依頼書! 報酬の良いやつ選んでおいたの。ししょーとあたしの二人、、の実力なら余裕なやつばっかりだから。この中から選びましょ」


 今明らかに二人の所を強調してたなぁ。

 それを聞いたシルファが目に見えて不満そうな表情(かお)をしている。


「まあ、最初だし簡単なやつがいいかな」

「簡単ね……じゃあこれは?」


 ユイハが選んだのは『フェーネの森に沸いた、タイランとドラゴンの討伐』というやつだ。


「タイラントドラゴン!? それって凶暴な感じのやつだよね? そんなの大丈夫なの?」


 タイラントって確か、暴君って意味だよな。デカくて凶暴でとにかくすごいやつというイメージしかない。

 これのどこが簡単なのか。楽に終わるイメージが全くできない。


「よく見てししょー。『タイラントドラゴン』じゃなくて『タイランとドラゴン』。全然別物よ」

「タイランと、ドラゴン? シルファ知ってる?」

「いえ、魔物に関することはあまり……」

「まあ見るのが一番早いわ。あたしとししょーがいれば楽勝よ! とにかく行きましょう」

「そうですね私とお兄ちゃんがいればなんでも楽勝です行きましょうお兄ちゃん」


 あ、これやばいやつだ。


「別にあんたは来なくていのよ? あたしとししょーの二人、、で大丈夫だから」

「貴女とお兄ちゃんの二人で大丈夫なら、私とお兄ちゃんでも十分過ぎるほど大丈夫ですね。という事で兄妹仲良く行ってきますね貴女はギルドでお留守番お願いします」

「あんたが留守番してなさいよ! 戦いならししょーと弟子で行く方がいいに決まってるわ」

「いいえ兄妹の方がいいに決まってます! お邪魔虫はすっこんでてください!」

「何ですって!」

「何ですか!」

「いい加減それやめな――」

「お兄ちゃん(ししょー)は黙ってて!」

「……」


 もうこの二人置いていこうかな。

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さあ行こう、希望に満ちた世界へ! 夏巳 エイト @summer_38

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