第七十六話 青龍将軍立つ



 メンシアード王都に、王国正規兵の姿が見られたのは、しばらくぶりのことだ。


 やって来たのは十人、門番によって全員の入城が確認されると、城門はその時刻でもないのに、大きな音を立てて閉ざされた。


「ん? 何だ?」


 彼らにとってここは敵地ではなく、自領だ。ゆえに最初の動揺は小さかったが、続いて武器を手にした五十人ばかりがその周りを囲むと、緊張は一瞬にして高まった。


「お前ら、動くな!」


 そう言って進み出たのは、警邏隊の隊長を任せたティラガ、包囲したのは半数が山猫傭兵団ウチの連中、もう半数がロスター将軍の手勢で、俺と将軍はその中に混じっている。


「動くなと言った!」


 兵たちが抜剣しようとするのを、ティラガが一喝する。それで手の動きは止まったが、代わりに彼らの隊長らしき者が口を開いた。


「貴様たちは何者だ!」

「そんなものは、お前たちとは関係ないことだ」

「我らをメンシアード王国軍と知ってのことか」

「王国軍? 今のお前たちにそれを名乗る資格はない。懈怠けたい、職場放棄の罪で、この場で拘束する。おとなしく武器を捨てろ」


 ――お、懈怠けたいなんて難しい言葉、よく覚えられたな、かしこいかしこい。


 失敗の許されない仕事の最中、あまり気楽にしていられたものでもないが、今日の俺の仕事は、基本的にこいつの指揮ぶりを見ているだけだった。




 昨日は、ユリエルダからの伝令を受けた後、ティラガを伴ってロスター将軍のところに顔を出している。


 ティラガを警邏隊の将として立てることについて、その最大の懸念材料は、何といっても現在の プリスペリアこちら側の総大将である老将軍の存在だ。


 あの爺さんにも信頼する部下はいるだろうし、俺が勝手にこいつを副将格として使え、と言ったところで、簡単に受け入れてもらえるとは限らない、それどころか、面子を潰す気か、などと怒ってくるかもしれない。


 ――それでも力関係上、向こうが折れるしかねえだろ。


 総勢でいえばこちらの人数の方が多いわけだし、傭兵に対して頭ごなしに命令を聞かせられると考えるほど耄碌しているわけでもあるまい、いくら傭兵にでかい顔をさせるのが不満ではあっても、抑えになるような人間は、どうしても必要になってくるはずだ。


「爺さん、山猫傭兵団ウチの連中をそっちに預ける話だが、こっちからはこいつを大将に据えるからよ、よろしくしてやってくれ」


 執務室に招きいれられるや否や、いきなり本題に入る。


 勢いでなし崩しに押しきる、たとえ喧嘩になったところで、血を見るようなことにはならんだろ、そんなふうに踏んでいたが、ロスター将軍の反応は意外だった。


「何を勝手なことを――」


 ここまでは予想した通り、しかし俺の後ろから入ってきたティラガを視界に収めると、


「なんだなんだ、そいつはなかなか強そうじゃないか」


 そう言って嬉しそうに笑った。


 ――なるほど、爺さん的に、こういうわかりやすい奴はいいのか。


 将軍は立ちあがってこっちに近づくと、ティラガの肉付きを確かめるように、胸やら背中やら、腕などをばしばしと叩く。平手もあり、拳骨もあり、傍で見ている限りでは、その力加減には遠慮というものがない。


「おい、爺さん、やめろ、痛い」

「何じゃ、この程度で痛いのか、そのでかい体は見かけ倒しか?」

「……いや、実は痛くも痒くもないが、少々うっとうしい」


 これは本気で言っているのか、やせ我慢なのか、少しもわからない。


 それからティラガはしばらくされるがままで、将軍は最後には体当たりまでかまし、それでも微動だにしないことでようやく気が済んだのか、俺の方に向き直った。


「こんな立派な奴がいるのに、どうしてお前なんかが団長をしている?」

「お前なんかってどういう意味だ!」


 どうやらティラガはお眼鏡に適ったようだが、その悪態は余計だ、不愉快だ。俺だって好きでこんなことになったんじゃねえ。


「……ま、貴様の言うことはわかった。実際に使ってみんことには判断しようもないが、試すだけは試してみてやる」


 偉そうだな、おい、別にいいけどよ。


「ちょうど明日、またエルメライン殿下の使者が来ることになっている。姫様からはそれを拘束するようにとの命令が出ておる」

「ちょ、ま、それは――」

「そうじゃ、もはやこれ以上の時間稼ぎもできぬということで、うちの姫様は覚悟を固められた。いよいよこちらからも行動を起こすことになる」


 使者の捕縛、それが国家間でされるのであれば、褒められた行為ではない。しかし、ことは国内問題で、いまだ内戦にも至っていない、ならばそれは、純然たる犯罪の取り締まりであると言えなくもない。


 それが意味するところは、いつか必ず来る決定的な断絶、その時期が迫っているということだった。


 こちらに寄越した使者がいつまでたっても帰らないとなれば、エルメライン殿下も軍を起こして来るはずだ。手元にある兵糧や軍資金と相談すれば、おそらくもう一度使者を立ててくるような時間の余裕はあるまい。


「ま、向こうは十人ほどじゃから、そう難しい仕事でもない。ティラガと言ったな、おぬしがそれをやってみい、それで使えるようなら、儂の副将として認めるのもやぶさかではない」


 爺さんの言う通り、十人を捕縛することなど、大勢で取り囲んでしまえれば、さして難しくもない。


 しかし万が一、たった一人でも取り逃がしてしまえば、こちらの対決姿勢は、ごまかしようもなくエルメライン側に伝わることになる。そうなれば、いくばくかの余裕を残したまま、軍が動きだすことになるだろう。


 一日分でも一食分でも、向こうの兵糧を削ること、それが今後の勝敗を決する要になる。


 いくら試しだとはいえ、なかなか重要なところを任せてきた。これは大胆と言っていいのか、いや、この先はもう、こんなことばかりになるのかもしれない。すべてが重要で、すべてを完璧にこなしたとしても、それで勝てると決まったわけではなかった。




「聞こえんのか、武器を捨てろ!」


 ティラガの怒声が、聞こえていないはずはない。だが大将軍の命を受け、こうして使者の任を務める彼らであるから、決して雑兵であるとは言えないだろう、士官か将校か、いくらかは上の身分であるはずで、その立場に相応しい誇りも、覚悟もあるだろう。


 ならば、こちらの言葉におとなしく従ってくれる道理はない。


「抜剣!」


 隊長の号令一下、多勢に無勢は承知の上で、なお血路を切り開かんと、それぞれの腰の剣に手がかかる。


 しかしそれが抜き放たれる前、恐るべき衝撃が彼らを襲った。


 俺の場所からは、ティラガの唇がかすかに動くのが見えていた。


「そうこなくちゃな」


 おそらくそう呟いたのだろう、それと同時に、大きな踏み込みとともに、背中の大剣は水平に薙ぎ払われていた。


「ぐわう!」

「んが!」


 いくつかの叫びが宙を舞い、地を這う、しかしそれらは断末魔ではない。


 なるべく殺すな、ということは事前に厳命されている、それを守って、大剣の刃先は立てられてはいなかった。斬るのではなく、ぶん殴る、彼らを打ったのは、剣の腹の部分だ。


 直撃を受けた隊長はもちろん、密集していた四、五人が玉突き状態で一斉に将棋倒しになり、ごろごろと地べたに転がされた。


「うぉおおおおおおおッ!」


 ティラガは、いまだ立っている連中との距離を詰める。この一瞬のうちに、剣を構えた者たちもいたが、そんなことは意に介さず、もう一閃。


 反対側からの殴打が行われた後には、立っているものはいなくなった。


 自分たちの足元に転がってきた兵たちを、包囲の連中が二人一組になって取り押さえる。殴打の衝撃と、転倒による混乱で、ただちに反撃に移れる気力が残っているものはいないようだ。


 わずか二撃、それで捕り物は簡単に片がついた。


 昨日、ヒルシャーンたちに少々恥をかかされた分を取り返すには、充分すぎる鮮やかな手並みといえた。


「うわっはっはっは、どうやら儂の見る目に間違いはなかったようだわい」


 爺さんは上機嫌であるのは結構なことなのだが、いまいち納得がいかない。こいつを推薦したのは俺なのに、なぜかこの爺さんの中では、自分の手柄にしてしまっているような気がする。


 しかもこれは、指揮でもなんでもなく、単に個人の武勇をひけらかしただけだと思うのだが、ほんとうにそれでいいのか。




 さらに次の日、プリスペリア殿下から指定された時刻、王宮前の広場に跪いている俺とティラガの姿は、不本意ながら衆目に大いに晒されている。


 役者でもあるまいし、好き好んで目立とうなどと思わないが、こうして注目されることは、これまでにもそこそこあった。振り返ってみれば、我ながら誰もしないような無茶なことを繰り返してきた以上、こんな機会がたびたび巡ってくるのも仕方がない。それに、ブロンダート殿下護送の時は憎悪、ヴェルルクスへの壮行会の時は、嫉妬の視線がほとんどだったわけだから、それらに比べれば、今日のははるかにいいほうだ。


 設えられた壇上には、俺たちの他には殿下とカルルック、壇を降りて王宮の門側には国の役人たちが並び、反対の広場側には山猫傭兵団ウチの団員どもがずらりと整列している。さらにその後ろを、大勢の見物客が取り囲んでいた。


「あんた、緊張しねえのか」


 隣でしゃがんでいるティラガが、小声で話しかけてくる。


「するかい、こんなもん」


 これはこいつに限った話でもないのだろうが、ティラガにはその巨体に似合わず妙に卑屈な部分がある。昨日みたいに力ずくのことなら、どんな偉い奴相手でも怯んだりはしないだろうが、畏まった場所や、お上品なものには滅法弱い。


 ――ま、長いこと傭兵なんかやってりゃ仕方ねえか。


 しかし、それもこれまでのことにしてもらわなければならない。本日この場で行われるのは叙任式典、そして俺たちに渡される物、それは品物ではなく、身分だった。


「はったりでいいから、その鎧に恥ずかしくないよう堂々としてろ、そうすりゃお前は見栄えがする」


 こっちは軍装だし、プリスペリア殿下も、今日ばかりは、これまでに見た事務員と間違いそうになるような地味目の格好ではなく、華やかな礼装に身を包んでいる。あまり着なれない感じではあるものの、決して似合わないわけではない。


 ――ふむ、こうしてりゃ、ちゃんとしたお姫様じゃねえか。


 そんな真面目くさった表情をやめて、もうちょっとニコニコしていれば、廷臣や市民たちの人気もついてくるようにも思う。存在感や威厳などは、やはりエルメライン殿下には見劣りするのだが、それは比べる相手が悪いだけで、ただのお姫様として見るならば、平均は超えてきている。


 …………平均は、大幅に超えてきている。


 ――こいつ、チビのくせに、結構あんのな。


 同じチビということもあって、イルミナほど真っ平らではないにせよ、それよりちょっとましなぐらい、などと勝手に思いこんでいたのだが、改めて見れば全然そんなことはなく、プリスペリア殿下はその体躯には見合わないほど大きなものを、二つほどお持ちあそばされておられた。


「シャマリ殿、ご準備はよろしいですか?」


 カルルックの言葉で、我に返る。


「いえ、何も見てませんけども」

「……? それでは、始めさせていただきます」


 ことのあらましについて、打ち合わせは済んでいる。


 大勢の前での叙任式、この示威デモンストレーションは悪くない。


 よそ者の俺たちが、地元の傭兵団を差し置いて、王都決戦の仕切りをするというのは、決して歓迎されるものではない。加えて山猫傭兵団ウチが衛兵の代わりもしなければならないのだから、無位無官では傭兵たちにも市民にも、それから犯罪者にも言うことは聞かせられない。やはり何らかの公的な立場が必要になる。


 しかし、たとえ臨時でも、単なる傭兵にメンシアード王国の軍籍を与えることは、政府がいい顔をしなかったらしい、そこでプリスペリア殿下は、そこをごり押しするのではなく、俺たちに自らの私兵としての役職を与えることにしたのだ。


 だからこれは、彼女個人の、私的な催し物に過ぎない。そしてそうである以上は、誰も口を差し挟むことはできない。


 だがこうして、大々的に公表してしまえば、それは公の官職を与えられたのと、実務的には何も変わらないのだ。


 俺の背中から、身内のひそひそ話が聞こえてくる。


「おい、俺らメンシアードここの兵になんのか?」

「いや、そうじゃなくて、お姫様のお抱えみたいだぞ」


 ――こいつら、人の話をいっこも聞いてないのな。


 いくら封地を与えられた王族とはいえ、殿下個人の私財には限りがある。すでに雇用している私兵の、五倍にもなる俺たち全員を抱え込めるはずがない。これはあくまで、その場しのぎの名目だけのことだ。極端に言えば、大勢の前で『俺たちが姫様の子分になった』と、中身のない宣言をするに過ぎない。俺だって本気で子分になるつもりもない。


 そのことは事前に説明を入れたつもりなのだが、山猫傭兵団ウチの連中は、事情をきちんと把握していなかった。


 まあ、身内ですらこんなふうに思ってしまうのだ、そうでない見物客からしてみれば、これはメンシアード王国の正式な叙任式典以外の何物にも見えず、今後俺たちが傭兵たちに指図したり、町の治安維持にあたることに疑問を持たれることはないだろう。


 さらには、この場には、メンシアードの廷臣たち十数名が列席している、いや、これはさせられている、といったほうが正確か。


 忙しかったのか暇だったのかは知らないが、ロスター将軍あたりに強引に引っ張ってこられたのだろう彼らの顔は、一様に不満気だ。ここに並ばされている理由も、絶対にその必要があったからではなく、単なる箔付けか、賑やかしの意味合いしかない。


 大抵の場所から俺たちに向けられる視線は好意的なのだが、嫌そうなものは、ほとんどがその一帯から発されている。


「小娘が勝手をしやがって」

「傭兵どもに好き放題をさせるのは許せん」


 おおむねそんな気分なのだろうが、この場で異議を申し立ててくるほどの気骨がある奴はひとりもいない。ならば、彼らは黙認した、そう捉えられても文句は言えない。


 カルルックがひととおりの式辞を述べた後、プリスペリア殿下が中央に歩み寄り、俺たちに正対した。


「ウィラード・シャマリ、そなたをプリスペリア親衛軍団長、ならびに青龍将軍に任じる」

「はっ、謹んでお受けいたします」

「ティラガ・マグス、同じく親衛軍団副長、朱雀将軍に任命する」

「つ、謹んでお受けいたします」


 青龍将軍、朱雀将軍、メンシアードにそんな官職はないし、多分この世界のどこにも、そんな称号で呼ばれている将軍はいない。殿下の表情が崩れたわけではないが、適当にでっちあげた雑号を任命するその声には、いささか冗談の成分が含まれているような気がした。


 本来ならあと二人分、具足の色に合わせて、白虎将軍ディデューン、玄武将軍ヒルシャーンの位が用意されていた。それで東方の伝説にある四神、そういう諧謔だ。


 しかし、


「……残念だが、それはお受けできないね。いくら家出中とはいえ、私はこれでもアーマに正式な籍がある身だ、たとえ遊びのようなものでも、メンシアードの姫君から、勝手に位を頂戴するわけにはいかないな」

「御免蒙る。どうして俺の身分を他人に決めてもらわなければならんのだ」


 という、どちらもそれぞれの立場としてはごもっともな理由で、事前に固辞されている。


 まあこいつらには無理に貰ってもらう必要はなく、俺とティラガの分さえあれば事足りる、のだが、


「……しかし、白虎将軍ディデューンか、うん、悪くないね。殿下の意向とは関係なく、この戦の間は、自発的にそれを名乗らせてもらうとしよう」

「…………ぬ、俺だけ何もなし、というのは納得いかん」


 ――子供か! お前らは!


「……じゃあお前らも勝手にそう名乗っとけ」


 ということで、全くどうでもいいことであるが、結果的には四神はすべて揃う手はずになっている。


 続いて、カルルックの手より、殿下に一振りの剣が手渡された。


「ウィラード・シャマリ、そなたに護国の剣を授ける」


 それが殿下の宣言を受けて、俺の目の前にあった。


 ――元戎剣。


 正しくはそう呼ばれるらしい。この嘘っぱちだらけの式典の中で、この剣だけが本物だった。


 本来は、この国を守るために大将軍が手にすべきもので、先の大将軍エイブラッド公の失踪後、王家の宝物庫に厳重に保管されていた物だ。王冠や国璽には及ばなくても、この国一級の宝物であることには変わりがない。


 この時点でエルメライン殿下の所有物でないのは、能力的に今の自分には相応しくないと辞退したためであるらしい。


 ならば、俺の腰に差さるのも、相応しいはずがないのだが、プリスペリア殿下は大胆にも、それを勝手に持ち出してきたのだ。国王代理の権限があれば実行するのは簡単だが、それをやれることと、実際にやるのとでは、天と地の開きがある。


「勘違いするな、預けるだけだ」


 最初にこの話を持ってきたとき、ユリエルダはそう言った。俺としてもそのほうがありがたい。こんな重たいものは欲しくもないし、ちょっと預かるだけでも気が滅入る。


 だが、この国に縁もゆかりもない俺が、名分を背負って戦うなら、象徴となるべきものは必要なのだ、今さら受け取れないでは済まされない。


 俺は恭しく両手でそれを受け取ると、その場ですらりと抜き放つ。


 貴人の前で抜剣するなど、害意を疑われても当然の行いなのだが、ここまで異例ずくめの中、そんな部分だけ前例を踏襲したところで、何の意味もない。


 殿下に背を向け、子分どもや聴衆に相対する、そしておもむろに宙を十字に斬った。


 ――もう一丁。


 さらに右袈裟、左袈裟に剣を走らせる。何か形あるものを断ち割ったわけでもないが、それだけで、この剣が並の物でないことはわかる。こいつは装飾ばかりではなく、切れ味までもが名剣だ。


「プリスペリア殿下の御為、メンシアードの御為に、護国の剣、確かにお預かり申し上げます。殿下とこの国に仇なすものは、この青龍将軍ウィラード・シャマリがすべて斬り伏せて見せましょう、どうか安んじてお任せあれ」


 自分の人生に、こんな芝居がかった台詞を言う機会があるとは思っていなかったが、やっていることはまさに芝居で、そうと割り切れば、これはこれでなかなかおもしろい。


 剣を風車のごとく数度回転させ、びしり、と鞘に納める。先に何度か練習させてもらっていた甲斐もあり、それは我ながら綺麗に決まった。


 そして広場には一斉に拍手が巻き起こる。山猫傭兵団ウチの連中には、先陣切って拍手しろ、と言いつけてあったが、それもどうやら不要なことであったようだ。




 その後、山猫傭兵団ウチばかりではなく、見物人まで含めたその場の全員に対し、酒食が振る舞われた。


「……この国はえらい太っ腹だな、そんな金どこにあるんだよ」


 とは、バルキレオの感想だが、その出どころは見当がついている。


 これは、軍の兵糧になる予定だったもの、人足はすでに用意されていなかったが、昨日拘束した使者たちが、持ち帰るはずだったものだ。三〇〇〇人が二週間ほど食べていくための量、それがまるまる浮くと考えれば、ここに居合わせた人間に多少放出したところで、その一割にも満たない。


 軍を兵糧攻めで締め上げる、それは始まっていた。


 向こうが動きだす前には、俺たちも出陣しなければならない。出発は、数日のうちに行われるだろう。

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たのしい傭兵団  ~傭兵は世界最低の職業だ!~ 上宮将徳 @death_okan

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