概要
「下女の仕事」と言われた手に、誇りを持っています
「君は夜会で人の髪を触る。髪結いなど、下女の仕事だ」
春の宮の夜会で、そう言われて婚約を破棄されました。
わたくしはレナーテ・オルトマン。十九。伯爵家の娘ですが、家は借財で傾いており、取り柄は母から習った髪結いだけです。
母は王都の裏通りの髪結いでした。父がその人を娶ったので、わたくしは十九年、同じ言葉を聞いて育ちました。
だから、言い返す言葉を持っていません。
かわりに――隣に立っていたご令嬢の、落ちかけた編み込みを直しました。三十を数えるあいだのことです。
「代金は、結構ですわ。……最後ですから」
五日後。裏通りに、母の店を開けました。看板はありません。何と書けばよいのか、分からなかったからです。
戸を開けると、近衛の外套の男が一人、立っていました。
「今
春の宮の夜会で、そう言われて婚約を破棄されました。
わたくしはレナーテ・オルトマン。十九。伯爵家の娘ですが、家は借財で傾いており、取り柄は母から習った髪結いだけです。
母は王都の裏通りの髪結いでした。父がその人を娶ったので、わたくしは十九年、同じ言葉を聞いて育ちました。
だから、言い返す言葉を持っていません。
かわりに――隣に立っていたご令嬢の、落ちかけた編み込みを直しました。三十を数えるあいだのことです。
「代金は、結構ですわ。……最後ですから」
五日後。裏通りに、母の店を開けました。看板はありません。何と書けばよいのか、分からなかったからです。
戸を開けると、近衛の外套の男が一人、立っていました。
「今
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