概要
発句は、客じゃ。――枯野の庵で、亡き歌詠みたちと巻く一巻。
枯野の果ての庵に、一通の文が届く。
「発句は、客じゃ」
戸を叩いたのは、旅装の痩せた年寄り――旅に病んで夢は枯野をかけ廻る、と一句だけ残して、雪の中へ消えていった。
以来、庵には、季ごとに、客が来る。
朽ちた船を悔いる将軍。話に埋もれた小町。歌を捨てた帝。愚痴で三位に上った老武者。忍ぶ恋の斎院。手毬の僧。最古の声。旗を返しにゆく将軍。君と呼ぶほかを知らぬ歌人。石をもて追われた青年。
名は、誰も、名乗らない。
黒い椿の筆を持つ少女が、下りた句だけを、書き留めていく。
亭主は、書物の山に埋もれたセンセ。
酌をすれば右に出る者のない女。
寒い寒いと言うている、貧乏神。
そして、無口な、福々しい大男。
一句が付くたび、庵の外の季節が、動く。
枯野に雪が降り、雪が解け、菜の花が咲き、蠅が飛び、
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